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ヒ素には主に、炭素を含む「有機ヒ素」と炭素を含まない「無機ヒ素」があり、人体への悪影響がより強いのは後者の無機ヒ素です。
無機ヒ素が一度に、あるいは短期間で大量に体内に入った場合は、発熱・下痢・嘔吐・脱毛などの症状があらわれます。
これに比べると、有機ヒ素は人体への悪影響が小さいとされており、魚に含まれるのもこちらの有機ヒ素と考えられています。
とはいえ有機ヒ素が人体に完全に無害なわけではないため、どの程度有害な影響を持つかという点には議論があります。
近年の研究では、有機ヒ素が血管内皮細胞に障害を与えることで、高血圧を引き起こす原因となることが報告されています。
この事実を考慮すると、魚を頻繁に食べることで有機ヒ素が体内に蓄積されれば、高血圧の原因となるかもしれません。
ただ、高い頻度の魚食が本当に高血圧に寄与しているかは不明ですし、またどれくらいの頻度で魚を食べると高血圧になるのかも分かっていませんでした。
そこで研究チームは今回、日本人を対象に、魚の摂取頻度・血液中のヒ素濃度・高血圧の有病率との関連性を調べることにしたのです。
今回の調査は、日本在住の一般成人2709人を対象としています。
最初に血液中のヒ素濃度と高血圧の有病率との関係性を調べたところ、血液中のヒ素レベルが高い人ほど高血圧のリスクも増加していることが確認されました。
またこれとともに、対象者の食事内容についても調査が行われ、6つのカテゴリーに分けた食品群(魚介類・肉/乳製品・野菜/果物・穀類・飲料品・菓子類)の摂取頻度と、血液中のヒ素レベルも比較されました。
その結果、あらゆる食品の中で魚介類の摂取頻度が、最も血液中のヒ素レベルの増加に寄与していることが分かりました。
血液中のヒ素レベルにおける寄与率は、1位が魚介類で25.3%、2位が肉/乳製品で9.6%、3位が野菜/果物で4.9%となっています。
そして最後に、魚介類の各種品目の摂取頻度と高血圧の有病率を調べたところ、1日に2回以上の頻度で魚を食べる人々において最も高血圧リスクが上昇していることが判明したのです。
下の図を見ると、特に魚肉と魚卵、貝類が高血圧のリスク上昇に関連していることが分かります。
その他、骨ごと食べる小魚や海藻、魚のすり身、イカ/タコ/甲殻類の摂取量は、高血圧に関連していませんでした。
チームはこの知見を検証するため、一般に流通している魚肉に含まれるヒ素をマウスに投与してみました。
すると血液中のヒ素濃度が増加し、それに伴う血圧の上昇が確かに認められたとのことです。
以上の結果から、高い頻度での魚食が血液中のヒ素レベルを高め、それが原因となって高血圧リスクを増加させることが明らかとなりました。
ただ魚好きや漁村に住む方々からすると「1日2回以上の魚食でもう過剰摂取になるのか」と驚きがあるかもしれません。
しかし「毎日魚を食べているけど、確かに高血圧だな」と心当たりがある方も意外と多いのではないでしょうか。
研究者は、大事なのは結局、色々な食品を組み合わせてバランスの良い食事を摂ることだと述べています。
魚が栄養素の宝庫であることは確かなので、適切な頻度で摂取するのが望ましいでしょう。
参考文献
魚の過剰な摂取がもたらす血液中ヒ素増加と高血圧のリスク https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/09/post-556.html 食品中のヒ素に関する基礎情報(農林水産省) https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_as/basic.html元論文
Elevated arsenic level in fasting serum via ingestion of fish meat increased the risk of hypertension in humans and mice https://academic.oup.com/ehjopen/article/3/5/oead074/7257608