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義肢の多くは一般に、切断された手足の形を模倣するにとどまり、それ自体を自由に動かせるわけではありません。
しかしスウェーデン・チャルマース工科大学(CUT)を中心とする国際研究チームは、患者の切断された腕から送られる電気信号をロボット義肢に伝達するシステムを構築。
今回の義肢の優れている点は、患者の意思に沿って指の動きまで再現することに成功した点です。
この技術は切断患者の日常的な動きを取り戻す希望となります。
では、一体どんな仕組みで機能するのでしょうか?
研究の詳細は、2023年7月12日付で科学雑誌『Science Traditional Medicine』に掲載されました。
目次
義肢は失ってしまった手足を補うための最も一般的なツールとなっています。
しかし多くの義肢は手足の形を模倣するにとどまり、コントロールも難しく、当然ながら患者の意思で自由に動かすことはできません。
そこで普通の手足と同じ動きを取り戻すことを目的として開発が進められているのが「ロボット義肢」です。
ロボット義肢の制御源としては、患者の残存肢に残っている神経や筋肉が想定されています。
というのも、患者自身の意思により発生する電気信号を利用することで、義肢にどんな動きをすべきかを細かく指示することができるからです。
もしロボット義肢が単独で動くだけなら、患者の意思とは関係ない動きしかできないでしょう。
しかし残存肢から電気活動を拾い上げて、それをロボット義肢に伝達すれば、患者の思いのままに義肢を動かすことが可能です。
そこで研究チームは、左腕の肘から先を切断した男性患者を被験者として、概念実証のための外科手術を行いました。
まず、残存肢に残っている電気信号を通すための神経(黄・緑・オレンジ)の末端を切除し、いくつかの神経の束に再分割します。
次に、神経束に電極の入ったセンサーを繋げて、受け取った電気信号を大きくする「増幅器」とします。
そして残存肢には、従来のようなソケットを介した義手の接続ではなく、残存肢の骨内にチタン製の骨格インプラントを直接的に埋め込む方法を取りました。
これを「オッセオインテグレーション(Osseointegration)」と呼びます。
オッセオインテグレーションは1952年に、スウェーデンの医師がウサギの脛骨にチタン製の顕微鏡を取り付けて、血流の観察実験をしていた際に発見されました。
医師が器具を外そうとすると、チタンと骨が強固にくっついて外せなくなり、さらに骨の組織が異物拒否反応をまったく起こしていなかったのです。
つまり、チタン骨格はソケット以上に強固かつ安定した義肢の結合方法となることが示されました。
チームはこのチタン骨格にAIシステムを内蔵し、これが増幅器から送られてきた電気信号を解読して、その動きに相当する運動情報をロボット義肢に伝達します。
この外科手術は予想以上の結果を上げました。
こちらは患者が正常な右手と同じ動きをイメージして、左のロボット義手に同じ動きをさせようとする映像です。
わずかのタイムラグがあるものの、ロボット義手は右手とまったく同じをして、5本の指をバラバラに曲げ伸ばしすることができました。
切断患者がロボット義手の指を独立して動かすことができたのは、これが世界で初めての例です。
さらに驚きはこれだけにとどまりません。
患者は手の開閉だけでなく、より日常生活に近い動きにも成功しています。
例えば、水の入ったカップの取手を握ってグラスに水を注ぐ行動や、薄い紙をロボットの指でつまみ上げてひっくり返すこともできたのです。
ちなみにロボット義手は指の開閉だけでなく、手首の回転にも対応しています。
加えて、ドライバーを使ってネジを開けたり、丸いボールをつかみ上げることもできました。
これを受けて、同チームのリカード・ブローネマルク(Rickard Brånemark)氏は「最先端の外科的・工学的技術が、切断患者にこれほど高いレベルの運動を提供できたのは驚くべきことでした」と述べています。
チームは現在、この技術を世界で実用化するべく、信号伝達の迅速化や操作性の向上を進めている最中とのことです。
この革新的なロボット義肢が世界に普及すれば、手足の喪失に苦しんでいる患者の日常を取り戻すことができるかもしれません。
参考文献
Surgical and engineering innovations enable unprecedented control over every finger of a bionic hand元論文
Improved control of a prosthetic limb by surgically creating electro-neuromuscular constructs with implanted electrodes