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魚類は基本的に体温を外部の温度に依存する「変温動物」であり、実際の体温は周りの海水温と同じであることが普通です。
ところが、いくつかの魚類には体の一部または全体を周囲の海水温より高く保つ能力があります。
その筆頭がネズミザメ目なのです。
ネズミザメ目のサメは筋肉から熱を発生して、体温を海水より高くするメカニズムを持っています。
そのおかげで高い運動能力が得られ、瞬発的に獲物に襲いかかったり、ハイスピードで遊泳したり、水面から勢いよくジャンプできるのです。
同じメカニズムはマグロやカジキにもあります。
よって研究者らは以前から「同じネズミザメ目のメガロドンにも体温を高く保つ能力があったのではないか」と予想していました。
一方で、現生するネズミザメの体温を計ることは簡単でも、すでに絶滅して骨や軟部組織も残っていないメガロドンの体温を調べるのは至難のワザです。
サメの骨格は化石として残らない軟骨でできているため、情報源として使えるのは「歯」しかありません。
しかし研究チームは「歯があればメガロドンの体温は十分にわかる」といいます。
メガロドンの歯には、それを形成する成分として炭素と酸素の原子が含まれています。
すべての原子がそうであるように、同じ炭素や酸素でも「軽いもの」と「重いもの」があり、これを「同位体」と呼びます。
軽い同位体と重い同位体の量は、それらが形成される際のさまざまな環境要因に左右されます。
そのため、歯の同位体分析からメガロドンの体温や餌の種類、住んでいた場所や海水の化学的性質などが分かるのです。
研究主任のランディ・フローレス(Randy Flores)氏は「歯に保存されている同位体は一種の体温計であり、しかもその測定値は数百万年も保存される」と指摘。
「歯は生きているときにメガロドンの組織の中で作られるので、同位体を分析すると、歯が形成されたときの温度を推定し、そこからメガロドンのおおよその体温を知ることができるのです」と説明します。
そこでチームはメガロドンの歯から彼らが自分の体をどれほど温められたかを調査しました。
チームは具体的な方法として、メガロドンの同位体と同時期にいた古代ザメの同位体の間に違いがあれば、メガロドンがどれほど自分の体を温められたかが分かると考えました。
そこでメガロドンと同時代の古代ザメの歯を世界5カ所から集め、質量分析計によって同位体を分析。
先行研究をもとに歯が採取された各場所の海水温を推定した結果、メガロドンの体温は一貫して、周囲の海水温よりも約7℃ほど高くなっていることが示されたのです。
この温度差は他の古代ザメよりも大幅に高く、メガロドンを「温血動物」と呼ぶに十分なものでした。
こうした体温の高さのおかげで、メガロドンは海中を高速で移動し、生息域を拡大しながら、世界中の海を恐怖のどん底に陥れる捕食者にのぼり詰めることができたのでしょう。
他方で研究者たちは「その進化上の利点が、今度は逆にメガロドンの絶滅につながった可能性がある」と指摘します。
というのも、メガロドンの末期にあたる533万〜258万年前に「地球規模の寒冷化」が起こったからです。
寒冷化によって海水が冷たくなると、メガロドンほどの高体温を維持するには膨大なエネルギーがかかるようになります。
そのためには食事量を増やす必要がありますが、獲物を捕らえるための動きが鈍っている上に、生態系の変化によって餌も入手しづらくなっていたはずです。
よって、この激動の時代を生き抜くのに、メガロドンの体温戦略は明らかに持続可能なものではなかったと考えられます。
こうした燃費の悪さがメガロドンを絶滅に追いやったのかもしれません。
参考文献
Megalodon was no cold-blooded killer https://newsroom.ucla.edu/releases/megalodon-warm-blooded-extinct-shark We Have a New Clue About What Wiped Out The Megalodon – It May Have Been Warm Blooded https://www.sciencealert.com/we-finally-have-a-new-clue-about-what-wiped-out-the-megalodon元論文
Endothermic physiology of extinct megatooth sharks https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2218153120