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なんとも無邪気な発想ですが、しかしこのアイデアが今、ロボット工学の分野で真剣に注目されています。
東北大学、山形大学、慶應義塾大学の研究チームは今回、アームの先端に小生物を装着して物をつかませる新たなグリッパーの試作を行いました。
これは小生物が物に触れると自動的に体を閉じる反射運動を利用したものです。
従来のロボットアームでは難しい繊細なグリップ可能になると期待されています。
研究の詳細は、2023年6月6日付でプレプリント・サーバー『arXiv』に公開されました。
目次
ロボット工学において、アームの先端に取り付けて、物をつかむ・加工する・ネジを締める・塗装するなどの動作を行う装置を「エンドエフェクタ」と呼びます。
エンドエフェクタは人間に代わって色々な手作業をしてくれますが、他方で柔らかく壊れやすい物をつかむ繊細な動作が難しいという課題がありました。
その中で研究チームは「生物そのものをエンドエフェクタとして利用できないか」と思い付いたのです。
過去にヒトの皮膚細胞を培養したものをロボットアームに被せた研究はありましたが、生きた生物をそのまま使った例はありません。
チームが生物をアーム代わりに利用できると考えたのは、多くの小生物には物に触れると反射的に把持する習性があるからです。
例えば、寝ている人の鼻にクワガタを近づけると2本のアゴを瞬時に閉じる映像を見たことがあるでしょう。
あれもこの反射運動によります。
ザリガニのリアクション芸にも同じことが言えますね。
そこでチームは最初の実験として「ダンゴムシ」を使用しました。
ロッドの先端に幅7ミリのハーネスを取り付けて、その間に1匹のダンゴムシを挟みます。
デモンストレーションで小さな綿片を近づけたところ、ダンゴムシは反射的に体を丸めて、見事に綿をグリップしてくれました。
綿をリリースするまでに平均2分間はさみ続けたそうです。
さらにチームは水中でも再現するために、ダンゴムシに代わって軟体動物の「ヒザラガイ(多板綱)」をロッドの先端に装着しました。
ヒザラガイはアワビのように扁平な体で岩肌に吸着する仕組みがあります。
そして水槽の中でプラスチックや木片、コルクなどに触れさせた結果、しっかりと吸着して持ち上げることに成功したのです。
しかも研究者は「従来の吸引装置ではコルクや木片には吸着できなかったので、これは注目に値する」と話しています。
またヒザラガイは光を避けようとする習性があるため、レーザー光線を用いることで、物のグリップやリリースを自在に誘導できるかもしれないと述べました。
さらにチームはダンゴムシやヒザラガイの他に、有望な生物の具体例を挙げています。
平らな壁に貼り付くヤモリの手足や強力な吸着力を誇るタコやイカ、それに加えて、バクテリアの鞭毛(べんもう)を使ったミクロな物質の把持も構想しているそうです。
一方で、チームは最も重要な点として「生物に一切の危害を加えない」ことを強調しています。
ロボット工学に生体を用いることは倫理的な側面から、厳正かつ慎重な配慮を要するものです。
チームは「生きた動物を扱う際には、生命倫理の規則や規制を徹底することが極めて重要になる」と言及。
その上で「私たちはどのような種類の動物を扱う際にも注意を払い、私たちの知識の及ぶかぎり、彼らの苦痛を避けるよう配慮していく」と述べました。
例えば、エンドエフェクタの仕事を果たした後はすぐに自然に帰すことなどが必須と考えています。
あるいは人のために活躍してくれたお礼に、好物の餌や心地よい住処を提供するのもありかもしれませんね。
こちらはダンゴムシのグリップ実験の映像です。
こちらはヒザラガイを用いた水中での吸着実験です。
参考文献
Bugs give robotic arms a hand元論文
Biological Organisms as End Effectors