「海に物を捨てるなんて許せない!」普通ならそう思ってしかるべきでしょう。

海洋ゴミは世界的な環境問題であり、太平洋にはフランスの約2倍の大きさのゴミ島まで出来ているからです。

そんな中、アメリカでは過去にニューヨーク市内の廃車になった地下鉄車両を海に丸ごと捨てるプロジェクトが行われました。

その数、なんと2500両以上。

一見すると反感を買いそうですが、実はこの裏には「地下鉄車両を海底に沈めて魚たちのお家にする」というメルヘンな目的があったのです。

その効果はいかほどのものだったのでしょう?

目次

  • 約10年間で「2580両の地下鉄車両」を海に投入
  • 廃棄車両が不毛な海底の砂地に「海のオアシス」を作る!

約10年間で「2580両の地下鉄車両」を海に投入

ニューヨーク州のメトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティー(MTA)は2001年8月から2010年4月にかけて、同市の廃車になった地下鉄車両およそ2580両を海に投入するプロジェクトを実施しました。

車両はアメリカ東海岸に位置するニュージャージー、デラウェア、メリーランドなどの各州に運ばれ、海岸沿いに海に投入されています。

工業写真家(industrial photographer)のスティーブン・マロン(Stephen Mallon)氏は、同プロジェクトを3年間にわたり追跡し、車両が海に運ばれ落とされる様子を撮影してきました。

マロン氏は「ニューヨークに20年以上住んでいますが、こんな光景は見たことがなく、地下鉄車両が海に落とされる瞬間は、めまいのような感覚を覚えるものでした」と話しています。

Credit: Stephen Mallon

地下鉄車両が「人工岩礁」として生まれ変わるまで

プロジェクトの目的は、使用済みの地下鉄車両を「人工岩礁」としてリサイクルすることです。

しかし、ただ闇雲に車両を海に落とせばいいという単純な話ではありません。

地下鉄車両は、人工岩礁という第2の旅に出る前に大きな変貌を遂げます。

Credit: Stephen Mallon

まず車両内の部品や車輪、シートなどを剥がし、海洋環境に悪影響を及ぼす可能性のあるものがすべて取り除かれます

その後、入念な掃除を行って、化学物質や汚染物質を徹底的に洗浄します。

こうして後に残されるのは、地下鉄車両の骨格のようなものです。

この工程を経ることで、ようやく海の生態系に害を与えない良質な人工岩礁へと生まれ変わります。

Credit: Stephen Mallon

かつては通勤などで人々が利用していた車両が人工岩礁となり、内部を魚が泳ぐ様子は、なんとも幻想的な風景です。

次項で、そんな沈められた車両が生み出す幻想的な海底の姿を見ていきましょう。

廃棄車両が不毛な海底の砂地に「海のオアシス」を作る!

さまざまな工程を経て車両は海に廃棄されますが、このプロジェクトでは車両を海に落としてからが本番です。

海底に沈んで固着した車両には、すぐに様々な海洋生物たちが棲みつきます。

車両の表面は人工物特有の滑らかさゆえに、藻類やフジツボが簡単に付着して成長・繁殖するのに最適だといいます。

こうして次第に車両は緑の藻に包まれていき、あちこちにフジツボがくっつく中で、それらを餌とする魚や甲殻類が次々に乗車を始めるのです。

やがて生物の多様なコミュニティが形成され、食物連鎖のネットワークが循環し始めることで、正真正銘の人工岩礁となります。

Credit: New York Transit Museum(Facebook)

これはそれまで不毛だった海底の砂地に突如として”海のオアシスが現れるようなものです。

そこに集まるのは、サンゴやフジツボ、カイメン、アオイガイの他に、スズキやマグロ、サバ、ヒラメなど多岐に渡ります。

地下鉄車両を受け入れたデラウェア州天然資源環境管理局のジェフリー・ティンスマン(Jeffrey Tinsman)氏は「人工岩礁で得られる餌の量は以前の砂地と比較すると、30平方センチメートルあたりで約400倍にも増えている」と指摘します。

また「泳ぎが速くない魚たちにとっては、餌場になると同時に、サメから身を隠すためのシェルターにもなっている」という。

小魚や甲殻類を狙った大物も集まるゆえに、人工岩礁は漁業関係者や釣りの愛好家にとってもメリットがあるのです。

Credit: zmescience –How NYC Subway trains were thrown in the ocean – and why that’s a good thing(2023)

これらの地下鉄車両は人工岩礁となった後も、海洋への悪影響がないかなど常に監視されています。

本プロジェクトの車両を海底に沈める試みはひとまず2010年で終了しており、今後ふたたび再開されるかどうかは不明です。

現在は、そこに定着した海洋生物たちを監視するフェーズになっており、上にあげた画像もそれを報告するものです。

もし海洋環境へも問題がなく、多くのメリットが得られるのであれば、他の国や地域でも似たようなプロジェクトの実施があり得るかもしれません。

とりあえず、不毛な土地に住んでいるお魚たちは新しい家ができることを喜んでくれるでしょう。

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参考文献

How NYC Subway trains were thrown in the ocean – and why that’s a good thing https://www.zmescience.com/ecology/nyc-dumping-trains/ Photo exhibit shows 10 years of subway cars dropped in the Atlantic Ocean to become artificial reefs https://www.6sqft.com/photo-exhibit-shows-10-years-of-subway-cars-dropped-in-the-atlantic-ocean-to-become-artificial-reefs/ Dumping subway trains into the ocean … in a good way https://edition.cnn.com/2015/02/26/world/subway-cars-coral-reef/index.html#:~:text=Photographer%20Stephen%20Mallon%20captured%20pictures,make%20an%20artificial%20coral%20reef.&text=More%20than%202%2C500%20carriages%20were,Authority%2C%20from%202007%20to%202010.
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 ニューヨークの地下鉄車両を海に沈めて「お魚の家」にするエモいプロジェクト