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しかし1920年代の自動車は胴体の外に車輪が別個に装着されたようなデザインでした。
そしてスーパーヨットのデカダンスは、1920年代の自動車に似た形状が採用されており、同時に滑らかなボディが「未来」を感じさせます。
見た目は「ボート」と言うよりも「自動車」に近く、デカダンスが海上を進む姿は、まるで未来の車が海の上を走っているかのようです。
こうした挑戦的な見た目ゆえ、デカダンスは「美しさ」や「面白さ」だけを追求した「見た目重視のデザイン」のように思えます。
しかし実はそうではありません。
従来のスーパーヨットよりもはるかに安定性が高く、そのために特殊な構造が採用されているのです。
デカダンスは、安定性の高い「双胴船」の一種です。
双胴船とは、2つの船体を甲板で平行につないだ船のことです。
「安定性が高く、傾きが少ない」というメリットがあり、水面下の船体形状を細長くできることから、巡航速度を高めることができます。
そしてデカダンスは、双胴船の中でも「小水線面積双胴船(SWATH)」と呼ばれる構造が採用されています。
これは2隻の潜水艦の上に船体が乗っているような構造です。
水中で水に接する表面積が大きくなるため摩擦抵抗は増大しますが、波エネルギーのある水線部分での表面積を最小限に抑えています。
これにより、波の影響をほとんど受けず、高い波が生じたり高速で航行したりする時にも、非常に高い安定性を持ちます。
2008年のモントレー湾水族館研究所(MBARI)の研究(PDF)では、従来の船とSWATHが比較されており、その画像からもSWATHが波に対して高い安定性を持つことが理解できます。
ウォー氏が提供するデカダンスの別の画像では、デカタンスの海面下のデザインも明らかにされており、デカダンスもまたSWATHであることがよく分かります。
彼によると、デカダンスは従来の船と比べて「縦揺れ」と「横揺れ」を70%も軽減できるようです。
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またウォー氏によると、デカダンスは長さ80m、幅30mという非常に大きなサイズであり、船室を広く確保できます。
あるゲストルームは、長さ30m、幅20m、天井高3mほどの大きな部屋になる可能性もあるのだとか。
さらに中央の船体から伸びた4つの「涙型(もしくは車輪型)の船体」にもゲストエリアが存在し、大きな窓から外の景色を楽しむことができます。
加えて複数の帆も展開可能であり、メインエンジンだけでなく風の力も利用できます。
ちなみに、デカダンスはサイズが非常に大きく、幅を広く取るデザインであるため、「港に停泊するのが難しい」という欠点があります。
それでもウォー氏は「高い安定性により、悪天候でも港に停泊させなくて済む」と主張しており、停泊の頻度を減らすことで欠点をいくらか補えるようです。
斬新なデザインだけでなく、確かな設計に基づいた安定性の高いスーパーヨット「デカダンス」。
デカダンスが実際に建造されるかは今のところ分かりませんが、ウォー氏が手掛ける新しいスーパーヨットのデザインは、今後も私たちをワクワクさせてくれることでしょう。
参考文献
‘decadence’catamaran resembles a rocket ship on water boosted by inflatable wing sails https://www.designboom.com/technology/decadence-catamaran-yacht-inflatable-wing-sails-andy-waugh-06-07-2023/ Introducing Decadence: the 80m futuristic superyacht concept based on 1920s motor racing https://www.superyachttimes.com/yacht-news/decadence-yacht-concept-by-andy-waugh-yacht-design