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研究者たちは、この効果を「感覚転移(Sensation transference)」と呼んでいます。
例えば、甘い味は丸みを帯びた形状や明るい色と結びつけられることが多く、一方で、苦い味は鋭角的な形状や暗い色と関連付けられることがあると言われています。
料理の盛り付け方や彩りによって「一層美味しく感じさせる」という体験をしたことがある人も多いでしょう。
このため味覚は、実際には舌で感じるだけでなく、視覚や触覚、嗅覚などさまざまな感覚と複雑な相互作用を起こして生じていると考えられるのです。
しかし、私たちが料理や飲み物を口に運ぶ時、食器から常に情報を得ているわけではありません。
例えば、ワインを飲んでいる最中は、「グラスの形状」は視界に入りづらい状態にあります。
グラス全体の視覚情報は、ワインを飲む前か後にしか得られていないのです。
そこで今回の研究チームは、飲料を味わっている最中でも、常に情報の入力がある要素「飲み口の厚み」に着目しました。
つまり唇から得られる触覚が、味覚評価にどのような影響を与えるか調べたのです。
実験には、厚みの異なる2種類のグラス(飲み口1.2mmの薄いグラス、飲み口2.8mmの厚いグラス)が用いられました。
ここに常温の緑茶を注ぎ、目隠しをした参加者(21~55歳)104人に飲んでもらい、それぞれの甘み、苦味、酸味、まろやかさ、コク、清涼感、美味しさを評価してもらいました。
その結果、厚いグラスの緑茶は薄いグラスの緑茶よりも甘く、薄いグラスの緑茶は厚いグラスの緑茶よりも苦いと評価されました。
唇で感じるグラスの厚みが、甘味や苦味を増大させると分かったのです。
ちなみに、実験で使用された2種類のグラスは、厚みに応じて重さも異なっていました。
そのため感じ方には重さの違いが影響した可能性もあります。
追加実験で重さの影響を調べたところ、単にグラスの重さが異なるだけでは味覚に対する有意な違いは確認できませんでしたが、グラスの厚さと合わせて重さが異なった場合には、重要な要因となることが分かりました。
つまり、グラスの厚みと重さが自然な組み合わせであった時、緑茶の味覚評価はグラスの重さからも影響を受けていたのです。
今回の結果は、なぜそのように感じるかというメカニズムについては言及されていません。
味覚に対する他感覚の影響は非常に複雑であり、現在のところ正確にその作用を説明することは困難でしょう。
しかし飲み物を口にする時、唇はグラスの厚みを必ず感じ取ります。
そのためグラスの厚みの影響を統計的に調査していくことで、グラスの種類から意図的に感じる味を変えることは可能かもしれません。
レストランやカフェ、居酒屋などでは、様々な厚みのグラスを用意することで提供できる味覚の幅が広がるでしょう。
さらに今回の結果は、唇から感じる触覚が味覚に対して影響を与えることを示唆しているため、「プラスチックストローの代替品である紙製ストロー」の影響を考慮する上でも役立つと考えられます。
参考文献
厚いグラスで甘いお茶に,薄いグラスで苦いお茶に〜グラスの厚みと重みが飲料の味を変えることが明らかに〜 https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2023/06/66260/元論文
The tactile thickness of the lip and weight of a glass can modulate sensory perception of tea beverage https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S294982442300023X