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フライト中の旅客機内の気圧は、圧縮空気を送り込む「与圧」によって地上の気圧に近づけられています。
とは言っても、高高度(8000~1万m)では完全に地上の気圧と同レベルにすることが難しいので、2400mくらいの気圧と同程度にセットされています。
与圧された飛行機の状態は、空気で膨らんだ風船に似ています。
上空で飛行機のドアが開いたりすることは、この風船に穴が開くのと同じです。
内部の空気が一気に外へ押し出されてしまうのです。
こうなる原因は、高いところから低いところへものが落ちるのと同様です。気体は気圧の高い場所から低い場所へと移動していきます。そしてこれは両者の気圧差が大きいほど強い流れになります。
緩い坂道を下る川の流れと、滝の流れを想像して比べてみればわかりやすいでしょう。
そのためもし、高高度で飛行機のドアが開いてしまった場合、気圧の違いから機内の空気とともにシートベルトをしていない人や固定されていない物が機外へ排出され、機内は瞬時に減圧されてしまうでしょう。
そしてこの減圧により温度が低下します。これにより機内では霧が発生。
そして酸素の欠如により、乗員は吐き気や意識低下が生じ、酸素マスクなどで対処しなければそのまま死に至ってしまいます。
しかしながら、飛行機のドアは空気圧の差によって強く閉じられているため、高高度では人間をはるかに超えた力(エアバスA380であれば約1万7500kg)がなければ開くことはできません。
与圧している上空では、最近の韓国の事故のように、「誰かがドアを開く」ことなど、あり得ないのです。
では、上空で「ドアが開く」以外に、想定外の事故が発生して機内の気圧が急減に減圧することはあるのでしょうか?
これに関しては1999年に、実際減圧が原因と考えられる恐ろしい飛行機事故が発生しています。
1999年、一機の飛行機が予定をズレた奇妙な航路でアメリカを横断していました。
この飛行機は「リアジェット35(N47BA」)」と呼ばれる機体で、プロゴルファーのペイン・スチュワート氏など計6人が乗ったプライベートジェットでした。
リアジェット35はいつものように離陸し、事前に承認された高度1万1900mまでオートパイロットで上昇します。
このフライトでは高度7000mまで管制官と正常に無線通信が行われていましたが、リアジェット35からの通信はこれ以後に途絶します。
6分後、高度1万1100mにまで上昇した時点で、再び無線通信が試みられましたが応答はありませんでした。
その後、複数回の通信が試みられましたが、いずれも応答がなく、空軍が介入する事態となります。
幸いなことに、F-16が近くの地域にいたため、目視調査を行う目的で飛行中のリアジェット35に近づきました。
F-16パイロットの報告では、リアジェット35には目立った損傷がなく、まっすぐに飛び続けていましたが、窓は結露か氷で覆われたように不透明であり、内部の乗組員の状態を確認することはできませんでした。
その後、さらに2回、別々のF-16によってリアジェット35の追跡がなされましたが、いずれも内部は確認できず、反応も得られなかったようです。
この時のことについて、後にカナダのジャン・クレティアン首相は、「リアジェット35がカナダ領空に侵入した場合、都市への墜落を回避するために撃墜する許可があった」ことを認めています。
しかし結局、そのような事態にはなりませんでした。
本来のルートを大きく外れて飛び続けたリアジェット35は、燃料を使い果たし、アメリカ中西部に位置するサウスダコタ州アバディーンの沼地付近に墜落したのです。
離陸から約4時間後となったこの墜落事故は、機体をバラバラにし、大きなクレーターを作りました。
リアジェット35に乗っていた6人全員が亡くなりましたが、後の調査やレコーダー分析により、フライト中にどのような出来事が生じたか、いくらか予想されています。
まず、管制官との最後の通信から数分以内に、機内で減圧が発生したことが明らかになりました。
その原因と減圧スピードは不明なままですが、乗客・パイロット共に、酸素マスクで対処する間もなく、低酸素によって意識を失ってしまった可能性があります。
アメリカの「国家運輸安全委員会(NTSB)」によると、小さな穴など胴体の破損があった場合、機内が急速に減圧するケースと徐々に減圧するケースの両方があり得るようです。
リアジェット35がどのように減圧したかは分かりませんが、レコーダーによると、飛行最後の数分間は誰も目を覚ましておらず、最後のコンタクトから間もなく、全員が意識を失ったか、死亡した可能性があります。
その後は誰も操縦桿(操縦するためのハンドル)を持たず、ほぼ4時間にわたりオートパイロットで飛行を続けていたのです。
高高度で生じたリアジェット35の事故を完全に解明することはできていませんが、高高度で飛行機に穴が空いたり扉が開いた場合、このような大惨事に陥ってしまうのです。
アクション映画などでは上空で飛行機の扉を開いて主人公が敵と殴り合っているようなシーンが登場することもありますが、現実には意識を保つのも難しい危険な状態となる可能性があります。
飛行機の扉を高高度でおかしな客が自力で開けるなんてことはないでしょうが、今回の韓国の事故を聞くとちょっと恐ろしくなりますね。
参考文献
N47BA: The Plane That Flew While Everyone Inside Was Likely Dead https://www.iflscience.com/n47ba-the-plane-that-flew-while-everyone-inside-was-likely-dead-69038