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ところが研究主任のアンディー・デイビス(Andy Davis)氏は、ジョロウグモが積極的に動き回って狩りをする姿を目にしたことがありませんでした。
それもそのはず、ジョロウグモは造網性の種であり、大抵は巣の真ん中に鎮座して、餌も巣に引っかかるのを待つのが基本です。
日本でも、その辺をのしのし歩き回るジョロウグモを見かけたことはほぼないでしょう。
そこで研究チームはジョロウグモの性格を知り、本当に攻撃的であるかどうかを確かめようと考えました。
実験はいたってシンプルです。
クモは突然の刺激を受けるとビックリして一時的にフリーズし、危機が去ったと判断したのちに活動を再開します。
研究チームはこの習性を利用しました。
実験では10種類の異なるクモ計450匹以上を対象に、スポイトのような器具を使って、無害な空気砲を2発吹き付けます。
そしてフリーズしてから動き出すまでの時間を測りました。
その結果、ほぼ全ての種はフリーズから約1分〜1分半で活動を再開したのに対し、ジョロウグモだけは平均1時間以上も硬直して動けなくなっていたのです。
これは前例のない記録で、ジョロウグモが「あらゆるクモの中で最も小心者(shyest)であることを示唆している」と研究者は話します。
デイビス氏は「ジョロウグモは攻撃を受けると完全に死んだふりをして、危機が去るのを必要以上に待っていた」とした上で、「これは彼らが攻撃的であるよりもむしろ、非常に臆病であることを意味している」と続けました。
実際、ジョロウグモは人やペットに対して無害であり、しつこく追い詰められない限り噛み付くこともありません。
仮に噛みつかれたとしても、人体に害を与えるほどの毒はないです。
ただ鋭い牙によって出血はしますが、そこまでしてジョロウグモを触ろうという人はいないでしょう。
ではジョロウグモが気弱で臆病なのであれば、なぜこれほど急速に拡大できたのでしょうか?
ジョージア州に侵入したジョロウグモの分布を見ると、在来種のクモが通常は生息しないような場所にいることがこれまでの調査で明らかになっています。
それは主に電線の間や信号機の上、ガソリンスタンドなど、人が行き交う都市部であり、いずれもクモにとって平和で快適とは言えない場所です。
都市部は騒音や振動、視覚刺激に溢れており、ほとんどのクモにとっては耐え難い環境と言えます。
しかしデイビス氏は「ジョロウグモの内気な性格がこうした刺激に耐えるのに役立っている可能性がある」と話します。
つまり、刺激が起こるたびに硬直して動けなくなることが、逆に都市環境に留まれる資質となっていたのかもしれません。
それからデイビス氏は「ジョロウグモの急速な拡大は、単純に彼らの繁殖力が他のクモに比べて非常に高いおかげでもある」と指摘します。
ライバルがいない場所に適応できること、繁殖力が高いことが、内気ながらも急速な勢力拡大の秘訣のようです。
最後に同チームのアミテッシュ・アネラオ(Amitesh Anerao)氏は、こう述べています。
「私たちの多くは、生物が侵略的(invasive)であることと攻撃的(aggressive)であることを同義に考えがちです。
しかし今回の発見により、ジョロウグモを過度に怖がる必要はないと人々を説得することができるでしょう」
むしろ怖がっているのはジョロウグモの方かもしれませんから。
参考文献
Joro spiders aren’t scary. They’re shy. https://news.uga.edu/joro-spiders-are-shy/元論文
Startle Responses of Jorō Spiders (Trichonephila clavata) to Artificial Disturbance https://www.mdpi.com/2813-3323/1/2/9