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サメを含む魚類は変温動物であり、彼らの体温は周囲の温度に大きく依存しています。
つまり、あまりに水が冷たいと、特にアカシュモクザメのような温帯性の魚類は、体の熱が奪われてうまく泳げなくなるはずなのです。
それでも彼らは冷たい深海に潜って悠々と獲物の狩りをしています。
そこで研究チームはこの謎を解明すべく、ハワイ近海のアカシュモクザメに筋肉温度・深度・体の向き・活動レベルなどを同時に測定できる装置をタグ付し、追跡観察しました。
チームは23日間にわたるトラッキングで、アカシュモクザメがV字型に潜水し、ミサイルのように水面に浮上する行動を何度も観察しました。
潜水時には水深800メートル以上、水温5℃の場所まで到達しています。
ところが不思議なことに、体温データを見ても潜水中のサメの体温はほとんど変化していなかったのです。
むしろ深海に潜っているときは体温がわずかに上がっているほどでした。
ただ唯一、深海からの浮上時に水深290メートル付近を通過する中で、体温が一時的に平均2.8℃も下がっていたのです。
「潜水時に体温が微増し、浮上時に体温がガクンと下がるポイントがある」
これは一体どういうことでしょうか?
データや映像を分析した結果、アカシュモクザメは潜水時にエラを閉じて息を止めていることが判明したのです。
魚類のエラは水から酸素を取り込んで体内に循環させる大事な役割があります。
その一方で、研究主任のマーク・ロイヤー氏によると「サメのエラにはラジエーター(冷却装置)のような働きがあり、開けっ放しだと冷たい水が体内に入り込んで、筋肉や血液、臓器を冷却させる」と指摘します。
要するに、アカシュモクザメは冷たい深海で体温を下げないために、エラを閉じて熱が逃げるのを防いでいたのです。
それによって潜水時に逆に体温が微増し、狩りに必須の俊敏な動きを維持できていたのでしょう。
それから水面に上昇する過程で、酸素を取り込むために再びエラを開きます。
データによるとそのポイントが水深290メートル付近であり、冷たい水がエラに入り込んだことで、体温が一時的にガクンと落ちていたのです。
実際、水深1044メートルの海底を泳ぐアカシュモクザメの映像を見ると、エラがしっかり閉じられており、水面付近ではエラが開いている様子が確認されました。
ただしエラを閉じることは熱損失を防ぐと同時に、酸素の供給がシャットアウトされることも意味します。
そのため、アカシュモクザメは平均17分間の息止めをしていましたが、深海に留まったのはそのうちの4分ほどでした。
以上の結果を受けて、ロイヤー氏は「海洋哺乳類が潜水中に息を止めることは知られていましたが、同じ戦略をとっているサメがいることは本当に予想外でした」と話しています。
私たちヒトも地上にいるとはいえ、あまりに冷たすぎる空気を吸い込むと肺にダメージを受けます。
(マイナス何十度という南極では、深呼吸を数回すると肺が出血するとか)
サメたちもこれと同じような危険性を回避するために、冷たすぎる水は取り込まないようにしているのかもしれません。
チームは今後、他種のサメや魚類でも同じような呼吸戦略が採られているかを知るため、調査を続けていく予定です。
参考文献
Hammerhead sharks found to hold their breath on deep water hunts to stay warm https://www.hawaii.edu/news/2023/05/11/hammerhead-sharks-hold-breath-2/ Why some hammerhead sharks seem to ‘hold their breath’ during dives https://www.sciencenews.org/article/hammerhead-shark-gills-thermoregulate元論文
“Breath holding” as a thermoregulation strategy in the deep-diving scalloped hammerhead shark https://www.science.org/doi/10.1126/science.add4445