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「スマートウォッチ」や「スマートグラス」などのウェアラブルデバイスは、今や当たり前の存在です。
そして、これらウェアラブルデバイスの次の段階が、メガネや腕時計といった付属品ではなく、服の布地自体をデジタルデバイス化する「スマートファブリック」です。
この技術は着るだけで身体活動を測定できたり、服自体がディスプレイの様に機能することを目指します。
今回、カナダのウォータールー大学(University of Waterloo)化学工学科に所属するミラド・カムカー氏ら研究チームは、熱と電気で色と形を変えるスマートファブリックを開発することに成功しました。
通常の布のような柔軟性を持ちながら、刺激に応じて曲がったり瞬時に見た目が変化したりするため、衣服やVR、ロボティクスなど様々な分野への応用が可能です。
研究の詳細は、2023年2月19日付の科学誌『Nano-Micro Small』に掲載されました。
目次
センサー、チップ、LEDなどを組み込んだ布素材「スマートファブリック」の開発が近年盛んになっています。
例えば、こうした素材を使って「着るディスプレイ」などが誕生しています。
普通の衣服のように洗濯も可能でありながら、任意の映像や文字を表示させられるのです。
これは映像に特化したスマートファブリックですが、他の機能を持たせたスマートファブリックの開発も進んでいます。
今回、カムカー氏ら研究チームが開発したのは、熱と電気に反応して色と形の両方を変化させるスマートファブリックです。
1つの刺激で1つの反応を見せる刺激応答性材料(例えば「熱で曲がる」など)は珍しくありませんが、新しいスマートファブリックは、「複数の刺激」による「複数の反応」を可能にした点で新しいものです。
この新素材は、異なる素材のよこ糸とたて糸を従来の織機と同様の装置を使って作成されました。
よこ糸には、ペットボトルの名称の由来でもあり、形状記憶の特性を持つ素材「ポリエチレンテレフタラート(PET)」と、温度変化で色が変わる材料「サーモクロミックマイクロカプセル(TMC)」が使用されています。
たて糸には、電気的特性を持つ「ステンレス鋼繊維」とPETでできた混紡糸が用いられました。
柔らかい素材と硬い繊維の組み合わせにより、丈夫でありながら布のような柔軟性を備えることができました。
新しいスマートファブリックは、動画で示されているように、ドライヤーで加熱して温度が20℃から60℃に上昇すると、生地が瞬時に紫色から水色へと変化しました。この変化は熱が取り除かれることで元に戻ります。
新素材に電気を流して加熱する方法でも色の変化が生じます。
また電流でスマートファブリックの形状を変化させることができ、電流を止めることで元の形に戻せます。
さらにスマートファブリックの一部分だけを選択的に形状変化させたり色を変えたりすることも可能です。
この新素材を応用するなら、寒い時と暑い時で異なる形状に自動変形する「体温調節機能を持つ衣服」を開発できるかもしれません。
また心拍数や筋肉の状態を検知するシステムと統合し、体の負荷に合わせて変形したり色の変化で状態を教えたりする特殊なスポーツウェアの開発に繋がるかもしれません。
さらに研究チームは、この布素材を発展させて、VR体験でより深い没入感を与えるウェアラブルデバイスを開発できると考えています。
新しいスマートファブリックの材料が安価であること、低電圧(20秒間で5V)でも作動することから、ウェアラブルデバイス以外にも、小型の生物医学デバイスや環境センサーなどにも利用できると考えられます。
加えて、「衝突しても元の形状に戻る自動車のバンパー」などの開発にも繋がる可能性があります。
もちろん、今回開発された新材料がすぐに実用化されるわけではありません。
それでも「2つの異なる刺激」で反応する布材料は、様々な分野で応用でき、次世代のテクノロジーを生み出す可能性を秘めています。
参考文献
New programmable smart fabric responds to temperature and electricity元論文
Multi-Stimuli Dually-Responsive Intelligent Woven Structures with Local Programmability for Biomimetic Applications