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小さな世界を描く量子力学では、1つの粒子が複数の場所に同時に存在することが許されています。
そのため、ある粒子が特定の場所に存在する確率は〇〇%と表現されます。
またこれらの確率には通常、ある種のピークが存在します。
たとえば上の図では真っ直ぐに発射された電子が壁に着弾した場合、どのあたりに最も着弾しやすいか(存在確率が高かったか)が赤いグラフで表されています。
電子は壁に対して垂直に発射されますが、移動中もさまざまな場所に同時に存在しているため、着弾地点も一カ所に定まりません。
しかしそれでも着弾地点は発射機と同じ軸に最も多くなります。
逆を言えば、中心の軸から逸れれば逸れるほど、存在する可能性は落ちていきます。
一方、ニュートン力学では確率的な要素が存在せず、同じ条件で実験すれば同じ結果が得られるとされており、発射機から発射された物体の着弾位置は理論上、バラけないとされています。
この事実から量子力学は確率論的であり、ニュートン力学は決定論的であると言うことができます。
そのため量子力学とニュートン力学の理論体系も大幅に異なったものとなっています。
しかし現実では大きい世界も小さい世界も同じ世界に含まれており、宇宙は大きい物体にも小さい粒子にも同じ法則を適応しているはずなのです。
ニュートン力学と量子力学の関係を解き明かしていくことは、大きな世界と小さな世界を結び付ける第一歩とも言えるでしょう。
そこで今回、静岡大学の研究者は「容器の中を転がるボール」を例に、ニュートン力学と量子力学の融合を試みました。
容器の中を転がるボールは通常、ニュートン力学で扱われる現象となっています。
この場合、ボールのエネルギーや位置はどの高さから落とされるかを調べることで求めることが可能です。
一方、この現象を量子力学的に解釈すると「ある地点にボールが存在する確率」として記述することができます。
この場合、ある位置でのボールの存在確率は上の図のように赤いグラフで示されます。
またボールが移動すると、存在確率のピークを示すグラフも左右に移動していきます。
このようにボールの位置が1点にしか存在しないとするニュートン力学と存在確率のピークを持つ量子力学は現象の理解の仕方そのものが大きく異なっており、簡単に融合させることはできません。
しかし幾つかは共有する概念もあります。
ボールの落とされる条件が同じならば、量子力学的な存在確率を示すグラフの動きとニュートン力学的なボールの動きはよく一致するものとなります。
そこで研究者たちは、量子力学的なグラフで記述されるボールの位置やエネルギーに対する期待値を求め、ニュートン力学が描くボールの位置やエネルギーの動きと重ねてみました。
すると興味深いことに両者の間に違いがあることが判明します。
量子力学による期待値の取り得る範囲は、ニュートン力学の取り得る期待値より必ず狭くなることが判明しました。
ただエネルギーの期待値が十分大きい場合、量子力学の取り得る値の範囲はニュートン力学の取り得る範囲と等しくなっていきました。
この結果は規模が大きな世界では量子力学的に導き出された結果がニュートン力学と一致することを意味します。
つまり量子力学は小さな世界を正確に描くだけでなく、大きな世界でもニュートン力学に近似した結果を出すことができたのです。
これにより、大きな世界を現わすニュートン力学のエネルギーと位置の関係を、量子力学の視点で説明することに成功しました。
さらに今回の研究結果は追加の洞察も得られています。
これまで粒子のエネルギー値を導き出すにはシュレーディンガー方程式を解く必要があると考えられていました。
しかし今回の研究により(詳しい計算過程は省きますが)シュレーディンガー方程式を使わず、粒子のエネルギー値を導けることが明らかにされました。
これは量子力学の常識を覆すものと言えます。
研究者は今後結果を利用した理論や実験的検証を行っていくそうです。
参考文献
量子力学におけるポテンシャル中の粒子の位置とエネルギーの関係を解明 ― ニュートン力学における位置とエネルギーの関係を量子力学で説明することに成功 ― https://www.shizuoka.ac.jp/news/detail.html?CN=9067元論文
Universal bounds on quantum mechanics through energy conservation and the bootstrap method https://academic.oup.com/ptep/article/2023/2/023A01/6979834?login=false