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こちらは世界遺産に登録されている小笠原諸島に生息するアナドリです。
小笠原諸島には、オガサワラヒメミズナギドリといった島固有の海鳥が繁殖しており、保全的な価値の高さからも注目を集めています。
一方で、アナドリは世界のどこにでもいる普通種であることから、あまり注目されてきませんでした。
そこで研究チームは、世界各地の島で繁殖するアナドリの遺伝的な関係性を明らかにすべく、小笠原諸島、ハワイ諸島の2島、大西洋に浮かぶ4つの島の合計7カ所から105羽のDNA分析を行いました。
その結果、世界のアナドリは「小笠原諸島」と「ハワイおよび大西洋」の2つの集団に大きく分かれることが判明しています。
さらに集団間の系統関係を調べたところ、小笠原諸島のアナドリは約85万年前にその他の集団から遺伝的に分岐したことが分かりました。
アナドリは世界中に広く分布する一方で、小笠原の集団は独自の歴史を持つ固有性の高い集団だったのです。
それからハワイと大西洋の集団は約16万年前に分岐していました。
この頃にはすでに南北のアメリカ大陸をつなぐパナマ地峡が形成されており、アナドリはその陸地を超えて分布を広げたと考えられています。
しかしこの系統図を見て不思議なのは、ハワイの集団が小笠原諸島よりも遠い大西洋の集団とより近縁であることです。
ハワイ諸島と小笠原諸島は約4000キロ離れていますが、これは海鳥にとっては全く遠い距離ではありません。
他方で、調査対象となった大西洋の島々はハワイから約1万1000キロも離れている上に、アメリカ大陸で大きく隔てられています。
小笠原とハワイの間には海しか広がっておらず、海鳥たちの移動を阻むような地理的障壁もありません。
にもかかわらず、両者に遺伝的交流がないのは非常に奇妙です。
また研究者によると、同じ地域に分布しているクロアシアホウドリでも、小笠原諸島とハワイとの境界で遺伝的な分化が見られるという。
これらことから、小笠原諸島とハワイ諸島の間には海鳥の移動を阻む何らかの”未知の障壁”が存在するのかもしれません。
今回の研究により、世界中に分布するいわゆる普通種であっても、実はユニークな希少性を持っている可能性があると分かりました。
小笠原諸島はこれまで島の固有種や希少種によって注目されてきましたが、新たに判明したアナドリの独自性が同島の生態的価値をさらに高めると考えられます。
今回の研究は遺伝的な分布の調査のみであるため、この不自然な小笠原とハワイの境界の具体的な理由までは明らかにされていません。
飛べば簡単に行き来できるはずの小笠原とハワイの間に一体何があるのでしょうか? アナドリの目には何が映っているのでしょうか?
今後の研究に期待が高まります。
参考文献
小笠原とハワイのアナドリは、海の上の見えない壁が越えられない—DNA分析が示した隠された固有性— http://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2023/20230411/index.html元論文
Contrasting patterns of population structure of Bulwer’s petrel (Bulweria bulwerii) between oceans revealed by statistical phylogeography https://www.nature.com/articles/s41598-023-28452-z