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ゾウは鼻先でペンを握って絵を描けるほど器用で賢い動物ですが、バナナは基本的に皮ごと食べます。
ところが独フンボルト大学(Humboldt University)はこのほど、ベルリン動物園で飼育されているメスのアジアゾウ「パンパ(Pang Pha)」が、鼻先だけを使って器用にバナナの皮むきができることを確認しました。
パンパは訓練されたわけではなく、飼育員の皮むきを見ている中で独自に習得したと考えられています。
研究の詳細は、2023年4月10日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されました。
目次
研究主任のレナ・カウフマン(Lena Kaufmann)氏は以前から、ゾウの鼻が微細な触覚を感知できるメカニズムを解明する研究を続けていました。
その中でベルリン動物園の飼育員から「うちにバナナの皮むきができるゾウがいる」との話を聞いたのです。
カウフマン氏は当初その話を信じていませんでした。
彼女の知る限り、ゾウはバナナを丸ごと食べて、皮を自ら剥くことはしないからです。
そこで氏は自身の目で確かめるべく、ベルリン動物園を協力し、パンパにバナナを与える実験を行いました。
すると本当にパンパは鼻先だけを使って器用に皮むきをし始めたのです。
そのテクニックやスピード、正確さは実に見事なものでした。
パンパはまず、手渡されたバナナの茎を折って取り除きます。
次に、折れた部分に露出した皮の先端を鼻先で摘み、私たちがするのと同じように、皮を一面ずつ剥いていったのです。
鼻先しか使えないため、パンパはバナナの重みを利用して振り払うように皮を剥いていました。
私たちが片手の親指と人差し指だけで皮を摘んで、バナナを振り落とすところを想像してください。
これは2本の腕も5本の指も持たないゾウからすると、驚くべき器用さです。
しかも皮むきのスピードは人間よりも速かったといいます。
こちらは皮むきをスローモーションで再生した映像。
ところが面白いことに、パンパはバナナの熟し方によって皮むきをするかどうかを変えていました。
カウフマン氏が近くのスーパーで買ってきたばかりの青いバナナを手渡したところ、パンパは皮を剥かずにそのまま丸呑みしたのです。
まだ熟していないバナナは実や皮が硬く、剥きづらいために皮むきをしなかったのかもしれません。
一方で、皮目に茶色い斑点が浮き出ていて程よく熟したバナナを差し出すと、そのほとんどで皮むきをしていました。
パンパとしては、これが最も好みのバナナだったと思われます。
ところが皮目が完全に茶色く変色し熟しすぎたバナナは、皮むきどころか、食べることすら拒否したのです。
カウフマン氏は「最初に茶色いバナナを与えると床に落として放置し、2本目を与えると、すぐに私の方に投げ捨てきました」と話します。
皮ごと食べるか、皮むきをして果実だけ食べるか、完全に拒絶するかはバナナの熟し方でも変わるようです。
それからパンパを他の仲間と一緒に食事させたところ、さらに興味深い事実が判明しました。
パンパは他のゾウがいるときは、程よく熟したバナナであってもほとんど皮むきをせずに食べたのです。
一人で食事をするときは皮むきをしてから食べる方が多かったのに対し、仲間と食事をするときは丸呑みする回数が明らかに増えており、皮むきは減っていました。
群れでの食事が皮むきをする場合は、たいていバナナが残り一本になったときでした。
これについてカウフマン氏は「おそらく、集団でいるときは早く食べないと、皮むきをしている間に他のゾウにバナナを食べ尽くされてしまうからでしょう」と指摘します。
最後の一本はもう奪われる心配がないので、皮を剥いて味わって食べるようです。
今のところ、なぜパンパだけがバナナの皮むきを習得したのかは明らかになっていません。
ただ飼育員の誰もゾウに皮むきの訓練はしていないことから、独学でマスターしたことは確かです。
飼育員はバナナを与える前に皮を剥いて食べさせていたことから、パンパはそれを見て学習したと考えられます。
単なるバナナの食べ方ですが、これは研究者にとってゾウの賢さと、鼻の器用さがどれほどなのかを知る貴重な機会となったようです。
参考文献
Watch an elephant peel a banana with her trunk in incredible first–of-its-kind footage元論文
Elephant banana peeling