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そこで今回の研究では、大学生426名(女性220名、男性204名、無回答2名)を対象にアンケート調査を行いました。
各人が片頭痛持ちであるか否かをスクリーニング(ふるい分け)する質問や、ネガティブな反復思考の傾向を測定する質問を実施。
各人の頭痛レベルは頻度や重症度、日常生活への支障などから測定しています。
このアンケート調査は1カ月の期間をあけて2回実施しました。
そうすることで、1回目に測定したネガティブな反復思考が1カ月後の頭痛にどう影響するかという長期的な関係性も明らかになります。
そして分析の結果、ネガティブな反復思考の傾向が強い人ほど片頭痛を発症しやすいことが判明しました。
1回目の測定でネガティブ思考が強かった人は、その時点では片頭痛と判定されなくても、1カ月後に片頭痛と判定されるリスクが2.48倍も高かったのです。
では、ネガティブな反復思考はどんなプロセスをたどって悪化していくのでしょう?
研究者によると、ネガティブな反復思考は以下のプロセスで重症化するといいます。
私たちは日常の中でさまざまな困難に直面しますが、そうした問題を放っておくことができない人は「考え続けないといけない」と思うことでネガティブな反復思考がスタートします。
そのうちに行き詰まってしまうと「問題が解決できない不全感」に陥ってしまいます。
そして「解決できないならもっと考えないと」と思うことでネガティブな反復思考がさらに悪化するのです。
そこで参加者における3つのプロセスの度合いをそれぞれ測定した結果、片頭痛持ちとそうでない人で興味深いパターンが見えてきました。
まず片頭痛がない人の場合でも、ネガティブ思考が原因で日常経験する頭痛があり、それは主に「緊張性頭痛」でした。
この人たちは先の3つのプロセスのうち、「考え続ける義務感」が強いと1カ月後の頭痛の重症度が低下しており、「問題が解決できない不全感」が強いと1カ月後の頭痛の重症度が悪化していました。
「考え続ける義務感」はネガティブな反復思考の始まりであり、まだそこまで「こじれていない」ため、頭痛から気をそらす働きがあると思われます。
しかし、次の「問題が解決できない不全感」に至ると、首や肩に力が入って緊張性頭痛がひどくなると研究者は指摘します。
これを図示したのが下の図です。(矢印は頭痛の重症度の低下と上昇)
これを見ると分かるように、片頭痛がある人の場合では、「問題が解決できない不全感」が強いと、1カ月後の頭痛による日常生活への支障は低くなっていました。
ところが、最終段階の「ネガティブな反復思考」の程度が強いと、1カ月後に頭痛の重症度が高くなっていたのです。
これについて研究者は、次のように解釈します。
「問題が解決できない不全感はかなりつらい状態だと考えられますが、まだなんとか頑張ろうとしているとも言えるでしょう。
そのため、頭痛の重症度を低下させる働きを保っているのかもしれません。
しかし、ネガティブな反復思考として本当に手に負えなくなると、頭痛による支障の度合いを高めてしまうのです」
さらに本研究では、新たに92名(女性69名、男性22名、無回答1名)を対象に1週間という短い間隔で同じ調査をしました。
すると、片頭痛の人の中では、ネガティブな反復思考の傾向の高い人ほど1週間後の頭痛の程度が弱まっていたのです。
これにより、ネガティブ思考は短期的には片頭痛を緩和する効果があると見られます。
以上の結果から、ネガティブな反復思考には、短期的に頭痛を緩和する効果があるために、その後もさらに持続するようになり、そのせいで長期的にはより頭痛の程度を悪化させるメカニズムがあると結論されました。
チームは今後、ネガティブな反復思考を低減させる心理療法が片頭痛の緩和に有効かどうかを確かめる予定です。
鎮痛薬を用いると頭痛が慢性化しやすいことが知られているため、こうした心理療法は薬物を使わない治療として期待できるかもしれません。
参考文献
ネガティブな考えは短期的には頭痛をやわらげ、長期的には悪化させる~心理的要因の効果に関する実証的な知見~ https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/76187元論文
Longitudinal Relationships Between Anxiety, Depression, Repetitive Negative Thinking and Headache Among Non-clinical Students After One Week and One Month https://link.springer.com/article/10.1007/s41811-023-00161-5