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一方で後者の連合学習は、複数の出来事の間の関係性を学習する必要があることから非連合学習よりも遥かに複雑です。
先の古典的条件づけの他に、「道具的条件づけ」も挙げられます。
これはある行動に対する罰や報酬を与えることで、行動を強化したり、弱化させたりする学習のことを指します。
たとえばサルに対し、LED点灯時にボタンを押すとバナナを与え、LED消灯時にボタンを押すと電気ショックを与えた場合に、サルはLEDが点灯した場合のみボタンを押すようなります。
連合学習は内容によっては細胞などにも見ることはできますが、基本的に刺激と反応を結びつけて記憶を形成する必要があるため、難易度が高く「脳を持つ動物でないとできない」と考えるのが普通でした。
神経系の発達により進化した脳は、過去の出来事を記憶したり、AとBの間のつながりを見つけるのを得意としています。
動物に芸を仕込む場合でも、基本的には道具的条件づけを利用し、エサと芸を結びつけて学習させます。
私たち人間が学習をする場合も、基本的にはこの連合学習が関連してきます。
しかし、すべての動物に脳があるわけではありません。
イソギンチャクやクラゲなどの刺胞動物は分散した初歩的な神経系しか持たないため、研究チームも「単純な反射レベルでしか行動できず、連合学習は不可能だろう」と予想していました。
ところが、ネマトステラは予想を覆す驚きの結果を示したのです。
チームは今回、スペイン・バルセロナ大学(University of Barcelona)と協力し、ネマトステラに古典的条件づけ学習ができるかどうかを検証しました。
実験では18匹のネマトステラを対象に、光と電気ショックを同時に与えて両者の刺激に関連性を持たせるグループと、間隔をあけることで2つの刺激に関連性を持たせなグループに分けて実験を行いました。
そして2つのグループそれぞれに、光だけを当てたときにどんな反応を示すようになるか調べました。
その結果、光と電気ショックを同時に与えられたネマトステラは、光に反応して即座に体を縮めるなど、強い行動変化が確認できたのです。
具体的には、光と電気ショックを同時に受けた個体は、72%が光だけで触手を大きく後退させるなどの反応を見せました。
刺激に間隔を開けたグループでも光刺激に反応する個体はありましたが、それは約30%に留まり両グループの間には光の刺激に対する反応に2倍以上の開きが見られたのです。
また、光と電気ショックを同時に受けたグループの方がより大きく触手を後退させていました。
シュプレヒャー氏は「ネマトステラもパブロフの犬と同じように、光と電気ショックがセットで起こることを学習したと言える」と述べました。
一方でチームは、ネマトステラが私たちと同じように、セロトニンやドーパミンといった脳の神経伝達物質を使って連合学習をしているかどうかは分からないと話します。
いかんせん脳のような神経中枢が見当たらないため、脳を持つ動物とは異なるネマトステラ独自の方法で学習している可能性があります。
シュプレヒャー氏は「彼らも学習の際にある種のシナプスが強化されているのではないか」と推測しています。
しかし、ここから先は今後の研究課題です。
その結果次第では、イソギンチャクも私たちが考えているより”能無し”でないことが分かるでしょう。
参考文献
These Sea Creatures Don’t Need a Brain to Learn, According to a New Study https://www.sciencealert.com/these-sea-creatures-dont-need-a-brain-to-learn-according-to-a-new-study Is It Possible to Learn without a Brain? https://www.unifr.ch/bio/en/info/news/28791/is-it-possible-to-learn-without-a-brain元論文
Associative learning in the cnidarian Nematostella vectensis https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2220685120