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一方、「構造色」とは、特定の光を吸収するような化学的な「色素」を持っているわけではありません。
光の波長よりも小さな微細構造が、光を反射・屈折・干渉させることで、発色しているように見えるのです。
自然界では、クジャクやモルフォチョウ、タマムシなどが構造色を持っています。
構造色では従来の塗料に比べて鮮やかで、環境に優しく、光学部品に用いた場合多くの応用が期待できるメリットがあります。
しかし構造色は、目的とする色を作り出すことが難しく、僅かな劣化や、傷によって色が変化してしまう可能性があり、耐久面で多くの課題を残しています。コスト的にも高くなる傾向があります。
このため構造色塗料の研究開発はさまざまなところで進められているものの、実用化は難しいとされてきました。
ところが今回、チャンダ氏ら研究チームはアルミニウムを用いた構造色塗料を開発することに成功しました。
しかもこの開発は、偶然から生じたものだったようです。
研究チームは当初、金属などを蒸発させて薄膜を形成するための装置「電子ビーム蒸着装置」を使って、アルミニウムの鏡を作成する研究を行っていました。
ところが、想定通りの構造は作られず、鏡としては機能しませんでした。
一方で、意図せず、「ナノアイランド」と呼ばれる微細な金属粒子の集合体が、表面全体に発生しました。
チームは最初がっかりしましたが、このアルミニウムのナノアイランドを構造色として利用できることに気づきました。
そこで本格的な塗料開発へと移行したのです。
開発された塗料は、シートの表面にナノアイランドを成長させることで、発色します。
色の違いはナノアイランドのサイズを変更するだけで生じるため、わずかな操作でカラフルな構造色を作れるようです。
しかもこの塗料は、わずか150ナノメートルの極薄の層で表面を覆って完全に着色できるため、従来の塗料と比べて驚くほど軽くなります。
研究チームは、これが「世界で最も軽い塗料」だと主張しています。
仮に、アメリカの大型ジェット旅客機「ボーイング747」に適用すると、従来の塗料を500kg使用する代わりに、たった1.3kgの新しい塗料で同様の面積をカバーできます。
これにより、ボーイング747は1機あたり1000kg以上の燃料を削減できるようです。
またこの構造色の塗料は、微細なナノ粒子の集合で作られるため劣化しづらく、紫外線による退色なども起きづらいと考えられています。
航空会社によっては、4年に1度の頻度で飛行機のカラーを塗り替えるため、この特徴も費用削減に繋がる可能性があります。
さらに従来の塗料とは異なり、赤外線を吸収しないため、乗り物や建物の内部に熱がこもらないよう助けてくれます。
実験では、表面の温度を従来の塗料よりも20~30℃低く保つことができており、エネルギー節約に大きく役立つと考えられています。
しかもカドミウムやコバルトなどの重金属を使った塗料よりも毒性が低いというメリットもあります。
ただ、航空機の塗料は単に色を付けるだけではなく、機体表面を保護することも目的の1つです。
では、今回の塗料が持つ表面の「保護機能」はどうなのでしょうか?
研究チームは、表面に微粒子の層が形成されることで、耐摩耗性や耐腐食性が向上する可能性を示唆しています。
ただし、この点に関してはまだ具体的な実験や比較が行われたわけではありません。
保護機能については、今後さらなる検証が必要となってくるでしょう。
とはいえ、世界で最も軽く、表面温度を30℃近く下げる塗料は、世界中の構造物に大きな影響を与えるはずです。
特に重量制限が厳しい宇宙船や惑星探査機などでは重宝される可能性があります。
世界で最も軽い「構造色の塗料」が、文字通り「世界を塗り替える」かもしれません。
参考文献
UCF Researcher Creates World’s First Energy-saving Paint – Inspired by Butterflies https://www.ucf.edu/news/ucf-researcher-creates-worlds-first-energy-saving-paint-inspired-by-butterflies/ This Is the Lightest Paint in the World https://www.wired.com/story/lightest-paint-in-the-world/元論文
Ultralight plasmonic structural color paint https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adf7207