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例えば、南極海域に生息するシャチは、エサや体の特徴の違いによってA~Dタイプに分けられています。
また北太平洋付近では、特定の海域に定住し魚を餌とする「定住型(レジデント)」、小さな群れや1頭のみで生活し決まった行動区域を持たない「回遊型(トランジェント)」、沖合に生息し巨大な群れを形成する「沖合型(オフショア)」の3タイプに分けられます。
それぞれのタイプでは遺伝子の違いが確認されたものもあり、亜種や別種として扱うよう求める声もあるようです。
いずれにせよ現在のシャチの調査については、地域で異なる部族の研究や保護という見方をするのが近いかもしれません。
そして今回研究チームが注目したのは、北太平洋の北東部に生息する定住型のシャチ集団です。
彼らは「サザンレジデントシャチ(Southern resident orcas)」と呼ばれており、絶滅危惧種に指定されています。
人々が何十年も保護に力を注いできたにも関わらず、絶滅の危機から救うことができていません。
1990年半ばには100頭近くいましたが、現在は73頭まで減少しています。
一刻も早く原因を突き止めて、適切な対処を行う必要があるのです。
そこでチームは、サザンレジデントシャチたちの遺伝子情報を調べ、他のシャチたちと比較することにしました。
この調査には、近年死亡した個体を含む、約100頭のサザンレジデントシャチのDNA解読が含まれています。
分析の結果、近親交配がサザンレジデントシャチを脆弱にしていることが明らかになりました。
彼らは他の集団との交配を頑なに行わないため、近親交配による病気やその他の問題にかかりやすく、早死にしていたのです。
通常シャチは約10歳で生殖を開始し、20代前半で生殖の最盛期を迎え、40歳まで生殖を続けます。
しかし近親交配を重ねたサザンレジデントシャチは、そうでない個体と比べて、40歳まで生き残る可能性が半分以下だと判明しました。
実際、近親交配を行わないメスのシャチが一生の間に平均2.6頭の子供を産むのに対し、近親交配を重ねたメスのシャチは短命で、平均1.6頭の子供しか産んでいませんでした。
動物の個体数が安定または増加するための条件が、「メス1頭につき2頭以上の出産」であることを考えると、サザンレジデントシャチが年々減っているのも納得できます。
また2018年の調査では、当時のサザンレジデントシャチ76頭のうち、繁殖していたのは26頭だけだと判明していました。
しかも1990年以降に生まれた子供の半数以上の父親は、たった2頭のオスでした。
こうした偏りも近親交配のレベルを高めていると考えられます。
もちろん、研究チームが指摘するように、サザンレジデントシャチの個体数減少には、餌であるサケの量の変動や有害汚染物質、船舶による騒音ストレスなども関係しています。
それでも過去数十年の環境条件を学習させた「予測モデル」に、サザンレジデントシャチの近親交配のレベルを下げて適用すると、将来予測される個体数がマイナスからプラスに転じました。
近親交配だけが個体数減少の原因ではありませんが、その影響力は大きいのです。
今回の研究から、シャチの世界でも人間と同じく、近親交配をタブー視することが種の長期的な繁栄をもたらすと分かります。
科学者たちはなんとかこの集団の絶滅を避けたいと考えており、「他のシャチとの交配を拒むサザンレジデントシャチの近親交配をどうやって防ぐか」という非常に難しい問題を抱えることになったようです。
参考文献
Inbreeding Contributes to Decline of Endangered Killer Whales https://www.fisheries.noaa.gov/feature-story/inbreeding-contributes-decline-endangered-killer-whales元論文
Inbreeding depression explains killer whale population dynamics https://www.nature.com/articles/s41559-023-01995-0