オーストリアの首都ウィーンにある墓地が”ハムスターの楽園”になっているのをご存知でしょうか。

数年前から話題となっていますが、ウィーン中央墓地は今、絶滅危惧種として知られる「クロハラハムスター(学名:Cricetus cricetus)」の安住の地となっています。

お墓にネズミがうろつくのは何となく想像できますが、ペットとしても人気なハムスターが繁栄しているとは、さすが華やかな街ウィーンといった感じです。

ではハムスターたちはお墓で何を食べ、どのように暮らしているのでしょう?

目次

  • なぜか墓地で暮らすハムスターたち
  • ロウソクを食べられるように適応していた!

なぜか墓地で暮らすハムスターたち

ウィーン中央墓地は、埋葬数において世界最大規模とされており、著名な埋葬者にベートーヴェンやモーツァルトがいます。

そんな墓地を楽園としているのがクロハラハムスターです。

クロハラハムスターは、その名の通り、お腹の辺りが黒い毛をしており、背中は栗色の毛で覆われています。

体長は約20〜34センチ、体重250〜600グラムとハムスターの中では最も大型の部類です。

野生個体はユーラシア大陸西部の広い範囲に分布しており、一般的に早朝や夕方、夜間など、明かりの薄い時間帯に活動します。

ところがウィーン中央墓地では、午前7時を過ぎたすでに明るい時間帯でも普通に草地を歩き回っているハムスターが見られるとのこと。

ただやはり、最も活発になるのは夕方頃だそうです。

墓地のハムスターは基本的に地中にトンネルを掘って巣穴を作り、その中で暮らしています。

それゆえ、墓地のあちこちにトンネルの入り口が散見され、そこからヒョコッと顔を出す姿が見かけられるという。

地上に出てくるのは主に餌を集めるためです。

特に10月〜3月にかけての冬時期は巣穴の中で越冬しなければならないので、それに向け大量の餌を集めて食料貯蔵庫に保管します。

巣穴につながる地下トンネルは非常に複雑な構造をしており、過去の研究では、地下約80センチの場所に作られた巣穴に食料貯蔵庫や寝室、トイレが設けられていることが分かりました。

さらに長い冬を乗り切るために、1匹のハムスターが90キロもの食料を貯蔵庫に蓄えていたという記録もあります。

越冬の間は体温を下げて冬眠しますが、5〜7日おきに起床して体温を上げ、貯蔵庫の食料を食べたり、トイレに行ったりして、また冬眠に入ります。

野生のクロハラハムスターの主食は、植物の種子や豆、草や昆虫ですが、ウィーン中央墓地の個体はちょっと様子が違います。

なんと彼らは人々がお墓に供えていった生花やロウソクを食べるよう適応していたのです。

ロウソクを食べられるように適応していた!

中央墓地で暮らすハムスターの生態に詳しいトーマス・フィレク(Thomas Filek)氏は「この墓地のハムスターたちはロウソクを食べて、そこに含まれる脂肪分を体内で消化できるのです」と説明。

「ハムスターたちがお墓からロウソクを盗もうとしたり、巣穴に押し込もうとする姿がたびたび目撃されていて、実際とても可愛いですよ」と話します。

ロウソクを入れている瓶に頭がはまって抜けなくなっているハムスターもよく見かけられるそうです。

彼らは墓地で食料を集め終わると、すぐに地下トンネルへと帰っていきます。

というのも、天敵である鳥たちが樹上からハムスターを狙っているからです。

そのため、ハムスターたちも地上では常に注意深く警戒の目を走らせているという。

また彼らは社会性を持たず単独行動する動物であり、基本的に仲間同士で協力することもありません。

性格はかなり気性が荒く、自分より遥かに大きな人間にも恐れずに噛みつくことがあります。

ウィーン中央墓地ではたくさんのハムスターが見られますが、世界的にはそうではありません。

クロハラハムスターは2020年の時点で、分布域全体で生息数が減少しており、すでに絶滅危惧種に指定されています。

個体数の減少の原因はよく分かっていませんが、専門家らは「道路建設による生息地の分断、農業による生息地の破壊や農薬汚染、害獣としての駆除、毛皮用の狩猟、光害などの複合的な要因が考えられる」と述べています。

国際自然保護連合(IUCN)によると、このまま保護対策を講じなければ、クロハラハムスターは今後30年で絶滅する可能性が高いという。

しかしそんなことはつゆ知らず、ウィーンの墓地ではたくさんのハムスターが繁栄しています。

墓地は人々の手によって荒らされることもありませんし、ロウソクや生花などの食料が簡単に手に入ることから、図らずも最良の楽園となっているのかもしれません。

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参考文献

Why do wild hamsters thrive in Vienna’s graveyards? https://thekidshouldseethis.com/post/wild-hamsters-vienna-graveyards European hamsters at the Central Cemetery in Vienna https://wildlife-travel.com/en/european-hamsters-at-the-central-cemetery-in-vienna/ Tiny hamster’s giant graveyard feast https://www.bbcearth.com/news/tiny-hamsters-giant-graveyard-feast
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 ベートーヴェンやモーツァルトも眠るウィーン中央墓地が「ハムスターの楽園」になっていた!?