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サウスコルから上は通常「デスゾーン」と呼ばれ、酸素濃度が薄くなり人間の生存が困難になる領域に入ります。
それゆえチームは、ブドウ球菌やレンサ球菌のように、人間の暖かく湿った鼻や喉に適応した微生物が休眠状態で発見されたことに驚きを隠せませんでした。
ブドウ球菌やレンサ球菌は土壌中でも普通に見られますが、実験室に持ち帰ったサンプルをDNA解析した結果、私たちの口内や皮膚に定着する種と同一であることが特定されています。
加えて、細菌サンプルは最終キャンプを設営する場所から約170メートル離れた場所で採取されました。
このことから、今回見つかった細菌は登山家が咳やくしゃみで体外に排出したものと見て間違いないとのことです。
さらに細菌サンプルを栄養豊富な寒天プレートの上で培養したところ、休眠状態から活性化して増殖させることに成功したのです。
同チームはこれまでにもアンデス山脈やヒマラヤ山脈、南極大陸など過酷な環境での土壌サンプルを調査してきましたが、これほどの標高でヒト由来の細菌が活性可能な状態で採取できたのは初めてとのことです。
これまでの研究では、ヒト由来の微生物がエベレストのような極端な環境にさらされると死滅する可能性が高いと考えられていました。
しかもサウスコルの気温がマイナス10℃を上回ることはほとんどありません。
それらを踏まえると、細菌が休眠状態のまま生き延びられたのは驚くべき耐性力です。
また、エベレストの平均気温はここ10年あたりで約0.33°C上昇しており、2022年7月にはサウスコルがマイナス1.4°Cという過去最高気温を記録しました。
こうした温暖化傾向は、現在は寒さで休眠しかできない細菌たちが自らの手で活発に増殖できる可能性を示唆します。
ただ今のところは、エベレストに蓄積している細菌が登山家や環境に悪影響を及ぼす恐れはないようです。
しかし新たに判明した微生物の予想以上の生命力は、地球外の惑星探査において懸念すべき事項となるかもしれません。
研究主任のスティーヴン・シュミット(Steven Schmidt)氏は「たとえば人類が最終的に火星に到達した場合など、私たちが落とした細菌で汚染しないように注意しなければならない」と話しています。
参考文献
Everest Is Preserving The Germs Coughed And Sneezed Out by Climbers https://www.sciencealert.com/everest-is-preserving-the-germs-coughed-and-sneezed-out-by-climbers元論文
Genetic analysis of the frozen microbiome at 7900 m a.s.l., on the South Col of Sagarmatha (Mount Everest) https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15230430.2023.2164999