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悲しいことですが、チェスや囲碁で人類が最先端のAIに勝つことはほぼ不可能になりつつあります。
AIは人類のチャンピオンに勝利した後も、絶え間なく性能を進化させ続けており、人類はもはやAIのライバルではなく、AI同士が人類の及ばぬところで天井の戦いを繰り広げるようになっています。
特に1997年に人類とAIの逆転が起きたチェスでは、人類とAIの力の差が歴然としており、スマートホンに入っているようなプログラムに対しても、人類はほとんど勝てません。
囲碁の世界で人類とAIの逆転が起きたのは2016年と比較的直近ではありますが、既に多くの年月が過ぎており、人類とAIの実力差は広くなるばかりです。
しかし人類の歴史を紐解けば、「負ける」ことは必ずしも衰退に結びつくわけではありません。
幕末の日本も科学技術レベルが西洋に大きく劣ることを知って精神的に大きな「負け」を経験したからこそ、明治維新という内部改革を経て、その後の飛躍につながりました。
同様に古代ローマの文化や軍事システムも優れた他国と接して「負け」を経験するごとに進化していきました。
また「負けがキッカケで強くなる」というパターンは文明や国家に限った話ではなく、個人レベルでも起こり得ます。
では、超人的な囲碁AIにでボロ負けした人類は、AIから何かを学んで、それまでの人類よりも強くなっていたのでしょうか?
答えを得るため香港城市大学は、1950年から2021年までに記録された囲碁プレーヤーたちの580万回に及ぶ指し手のデータを収集し、人類の囲碁技術が71年間の間にどのように進展してきたのかを調べることにしました。
(※現代の囲碁ルールが確立されたのは1950年以降だと言われているため、それ以前の19世紀のデータなどは参考にしませんでした)
具体的には、580万回の各指し手を分析し、特定の指し手を採用したことが勝率にどれほど影響を与えたかを調べ、全ての指し手の質「決定品質指数(DQI)」を設定することにしました。
たとえば勝負に決定的な影響を与えた「運命の1手」は決定品質指数(DQI)が極めて高くなりますが、定石と言われる指し手では低くなります。
といっても、580万回の個々の指し手を人間の専門家が逐一評価していては膨大な時間がかかってしまいます。
そこで研究では、580万のそれぞれの指し手が行われた直後にプレイヤーをAI同士に変更して、最後の指し手が勝率に影響を与えた度合いが調べられました。
結果、1950年から2016年の間に決定品質指数(DQI)は「‐0.2」から「+0.2」の間をさまよってほぼ停滞しているか、ひいき目に見ても緩やかに上昇している程度でした。
しかし人類がAIに負けした2016年を境に決定品質指数(DQI)は一気に跳ね上がり、特に2018年から2021年の間には中央値が「0.7」を超える状態になりました。
この結果は囲碁AIにボロ負けしたのをキッカケに人類プレーヤーの囲碁技術(決定品質指数(DQI))が急激に上昇したことを示します。
また各手が以前の傾向と比べてどれくらい斬新であったかを調べて、その斬新な手の決定品質指数(DQI)を調べてみました。
すると1950年から2016年にかけては、斬新な手は決定品質指数(DQI)を低下させる結果になっていました。
つまり2016年まで一見斬新で魅力的にみえる手は、勝敗の確率を下げる色物に過ぎなかったのです。
しかし2016年を境に、斬新な手が決定品質指数(DQI)を増加させることが明らかになりました。
この結果は囲碁AIに負けた人類は長年の技術的な閉塞を打ち破り、斬新であると同時に有効な指し手を行えるように変化したことを示します。
人類は囲碁AIに負けることで、囲碁AIのみせた人類の囲碁技術になかった要素を学び、さらに、その斬新な手を活用したプレーヤーが勝利を収めていたのです。
実際、囲碁AIに負けた人類側のチャンピオンである李世ドル氏は対戦後に「(囲碁AI)のスタイルは人間と異なっており、とても珍しい経験だった」「囲碁AIのお陰で囲碁をもっと勉強しなければならないと気付いた」と述べています。
また囲碁AIに負けたヨーロッパチャンピオンのFan Hui氏は「囲碁に対する見方が完全に変わるきっかけになった」と語っており、その後の彼の戦績が大幅に改善したことがわかっています。
研究者たちは、革新的な思考が機械から人類へ「ある種の文化」として輸出され、それが人類同士の間で広がり、人類の意思決定の質を改善していると結論しています。
人類とは異なる方法で学びを達成した超人的なAIと接することは、人類の力を増す結果になったのです。
ただ気になる点もあります。
現在はチェスや囲碁など特定の分野のみで人類とAIの力関係が逆転していますが、今後、同様の逆転はあらゆる分野に波及していくと予想されます。
もし人類の能力がAIの完全な下位互換になるような未来が訪れたのならば、人類が自分の意思で何かを決定をするよりも、常にAIの指示に従っていたほうが「得をする」ようになるかもしれません。
自分の能力を超える存在を作り続けるリスクについて、私たちは考え始めなければならなくなるでしょう。
なお新たな試みとして、次のページでは記事内容をchatGPTに「要約」してもらったものを掲載しています。
科学ライターが脳からひねり出した文面をAIはどう料理してくれたのでしょうか?
2016年の人類の囲碁チャンピオンのAIに対する敗北以降、人類のプレイヤーたちの勝率を向上させる斬新かつ優れた指し手が急激に増加していることが、香港城市大学の研究によって明らかになった。
この急激な「指し手の質」の改善は、人類同士でしか対戦を行っていた時期には観察されていなかった。
研究者たちは、この革新的な思考が機械から人類へ「ある種の文化」として輸出され、人類同士の間で広がり、人類の意思決定の質を改善していると結論づけている。
このような学びは、文明の発展を加速する要因になる可能性がある。
研究内容は、2023年3月13日に『PNAS』に掲載された。
最新のAIがチェスや囲碁で人類に勝つことはほぼ不可能になりつつあるとされる。
人類はもはやAIのライバルではなく、AI同士が競い合うようになった。
しかし、歴史を見ると、負けることは衰退につながるわけではなく、逆に強くなるためのキッカケになることもある。
香港城市大学は、1950年から2021年までに記録された580万回の囲碁プレーヤーの指し手を分析して、人類の囲碁技術が71年間でどのように進化してきたかを調べた。
特に、「決定品質指数(DQI)」という指標を用いて、全ての指し手の質を評価した。
その結果、1950年から2016年の間にDQIはほぼ停滞しているか、わずかに上昇している程度であることがわかった。
しかし人工知能(AI)が囲碁で人間に勝利した2016年を境に、人間のDQIが急激に向上したことが研究で明らかになった。
また以前は人間の斬新な手はDQIが低下する傾向があったが、2016年を境に斬新な手がDQIを増加させるようになった。
研究者は、AIに負けたことで人間が学び、斬新で有効な手を見つける能力を高めたと述べている。
研究者たちは、革新的な思考が機械から人類へ「ある種の文化」として輸出され、それが人類同士の間で広がり、人類の意思決定の質を改善していると結論しています。
要約を実行するにあたっては「ボロ負け」などchatGPTが危険視する単語を除いたり、文章を分割するなどの操作を一部で行いました。
しかし結果としてできあがった要約文は、非常に高い完成度となりました。
むしろ情報が圧縮されたぶん、オリジナルの記事より読みやすくなっていると言えるでしょう。
ライターとしてAIに敗北した気分です。
しかし今回の研究結果に従うならば、これが新たなスキル獲得や進化につながる可能性があります。それは今後、あらゆる分野で起こりうることかもしれません。
元論文
Superhuman artificial intelligence can improve human decision-making by increasing novelty https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.2214840120