建物火災における直接的な死因のほとんどは焼死ではなく、一酸化炭素などのガス吸引による中毒死です。

しかもガス中毒に対しては今のところ、現場ですぐに解毒できる特効薬がなく、搬送先の病院でしか有効な治療ができません。

そのため、救命が手遅れになり、死者数を増やすことにつながっていたのです。

しかし23年2月20日、同志社大学を中心とする研究チームは、火災で発生した中毒ガスと強く結合し、簡単かつ速やかに解毒できる新たな化合物の開発に成功したと発表しました。

特効薬として実用化されれば、救命現場での迅速な治療が期待できます。

研究の詳細は、2023年2月中に科学雑誌『PNAS』に掲載される予定です。

目次

  • 血液中でガス成分を捕まえて、尿として排出!

血液中でガス成分を捕まえて、尿として排出!

総務省消防庁によると、日本国内の建物火災では、死亡者の約4割が「一酸化炭素(CO)」や「シアン化水素(HCN)」などの火災で発生したガスの吸引による中毒死となっています。

通常、私たちの血液中ではヘモグロビンが酸素を全身に運搬してくれていますが、一酸化炭素を吸い込むと、ヘモグロビンと強く結合して酸素の運搬を阻害し、好気性呼吸(酸素を使った呼吸)ができなくなります。

またシアン化水素は、細胞内にあるミトコンドリア中のチトクロームオキシダーゼという酵素と結びつき、細胞呼吸を阻害します。

2019年に発生した京都アニメーション放火事件でも、死者36名のうち7割が火災ガス吸引による中毒死でした。

現時点で、一酸化炭素(CO)やシアン化水素(HCN)を現場で解毒できる特効薬は存在せず、治療法の開発は喫緊の課題となっています。

Credit: canva

そんな中、同志社大学理工学部の北岸宏亮(きたぎし・ひろあき)氏の率いる研究チームは、血液中の一酸化炭素やシアン化水素と強く結合する化合物「hemoCD-Twins」の作製に成功したと報告しました。

北岸氏は20年以上にわたり、中毒ガスを解毒する合成ヘムモデル化合物(hemoCD)の研究を続けています。

今回開発されたhemoCD-Twinsの主な仕組みは、2種の合成ヘムモデル化合物を混ぜて血中に投与することで、有毒ガスの成分を吸着し、尿として排出するというもの。

具体的には、hemoCD-Twinsが血中で「hemoCD-P」「hemoCD-I」という2つのヘムモデルに分解され、前者が一酸化炭素(CO)を、後者がシアン化物イオン(CN-)を補足することで解毒します。

Credit: 北岸宏亮/同志社大学(phys, 2023)

実験では、一酸化炭素とシアン化水素を吸引させたマウスにhemoCD-Twinsを投与して、効果を検証。

その結果、hemoCD-Twinsを投与された13匹のマウスのうち、11匹(85%)は数分で血圧が正常に戻り、生き残ることに成功しました。

また血液中で中毒ガスと結合した化合物の大半は、投与から約2時間で尿として排出されています。

対照的に、化合物を投与しなかった18匹のマウスはすべて1時間以内に死亡したとのことです。

この結果からhemoCD-Twinsには、高い解毒作用と即効性があることが認められました。

チームは今後、臨床試験により人体への効果や安全性を確認した後、実用化に向けた医療用医薬品の承認を取得したいと話しています。

目標では5〜10年以内に救急車や救急病院におけるhemoCD-Twinsの常備搭載を目指しているという。

北岸氏は「hemoCD-Twinsは火災による死亡者を大きく減らすポテンシャルを持っており、大量生産できる体制を整えて、実用化につなげたい」と述べています。

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参考文献

Novel synthetic porphyrin as a dual antidote against fire gas poisoning https://phys.org/news/2023-02-synthetic-porphyrin-dual-antidote-gas.html Antidote Against Fire Gas Poisoning: Overcomes Simultaneous Carbon Monoxide and Hydrogen Cyanide Poisoning https://scitechdaily.com/antidote-against-fire-gas-poisoning-overcomes-simultaneous-carbon-monoxide-and-hydrogen-cyanide-poisoning/
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 一酸化炭素などの「火災ガス中毒」を解毒できる化合物の開発に成功!