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21世紀末までには気温がさらに2~4℃上昇すると考えられており、海面や生態系、食料生産が受ける影響は非常に大きくなります。
では、どうすれば地球温暖化に素早く対処できるのでしょうか?
アメリカのユタ大学(The University of Utah)物理・天文学部に所属するベンジャミン・ブロムリー氏ら研究チームは、月の一部を爆破して作ったダストで太陽光を遮断するという方法を提案しました。
限りなくSFに近い暴論のように思えますが、一部の専門家はこの種の研究に「地球を救うためのカギ」が隠されているかもしれない、と考えています。
研究の詳細は、2023年2月8日付の科学誌『PLOS Climate』で発表されました。
目次
地球温暖化に対処する戦略の1つに、太陽光の一部を地球に到達する前に遮るというものがあります。
過去の研究では、地球に降り注ぐ太陽放射を1.8%減らせば、温暖化の流れを逆転できるとも言われています。
そのため科学者たちは、太陽放射1~2%を遮断することを目標に、様々な方法を検討してきました。
今回、ブロムリー氏ら研究チームは、地球と太陽の間にダスト(塵)をバラまくことで、太陽光を遮断できないか研究することにしました。
彼らが最初に考案したのは、人間が作った宇宙構造物(宇宙ステーションよりも少し小さい)を地球と太陽の間の位置で公転させ、そこからダストをバラまくという案です。
このアイデアで重要なのは、太陽光を遮断できるよう適切な位置でダストをバラまくことです。
そのためチームはコンピュータモデルを使って、宇宙構造物をラグランジュ点に配置しました。
ラグランジュ点とは、天体と天体の重量で釣り合いが取れる「宇宙の中で安定するポイント」のことです。
地球と太陽においても、このラグランジュ点が5つ(L1~L5)あり、この位置に配置された物体は、地球から見て常に同じ位置をキープしながら太陽の周りを公転することになります。
チームはL1に宇宙構造物を配置してダストをバラまけば、常に太陽光を遮れると考えました。
しかし、そもそもこの案には大きな課題があります。
大量のダストをどこから、どのように用意するのか、という点です。
計算の結果、太陽光を遮るのに十分な量のダスト(年間1000万トン以上)を地球から宇宙構造物に供給し続けるには、天文学的なコストと労力が必要だと分かりました。
そこでチームは、より現実的な別の方法を探してシミュレーションすることにしました。
その方法とは、「月の一部を爆破する」というものでした。
月面は、厚さ数m~数十mほどの「月レゴリス」と呼ばれるダストの層に覆われています。
そこで研究チームは、この月レゴリスをラグランジュ点のL1に向けて噴射し、太陽光を遮るという案をコンピュータモデルで研究することにしました。
月面を爆破するなどして大規模な掘削を行い、そこで得られた大量の月レゴリスをカタパルトのような機械で打ち上げるのです。
月の重力は地球の6分の1程度なので、打ち上げるのに必要なコストは大幅に削減されます。
打ち上げられた月レゴリスは次第に散っていきますが、計算では1度の打ち上げで最大1週間ほど効果が持続するようです
そして大切なのは、打ち上げられた月レゴリスの軌道です。
研究チームは、様々な打ち上げ軌道をシミュレートした結果、「月レゴリスが太陽光を遮るのに効果的なルートを発見した」と述べています。
定期的に月からの打ち上げを続けるなら、散乱した月レゴリスは下記の軌道を繰り返し、ずっと太陽の一部を遮ってくれるでしょう。
太陽光すべてが遮断されるわけではないため、特定の地域だけが極端に寒くなることはありません。
さらにこうした大規模な取り組みでは、「やりすぎで氷河期に突入するのでは?」といった懸念も生じます。
しかし今回のシナリオでは、デメリットだったはずの「継続期間の短さ」が、安全策として働きます。
仮に影響が大きすぎたとしても、打ち上げを繰り返さない限り、1週間経てば元通りになるのです。
それでも「月を爆破したり掘削したりする」というアイデアを実現させるのは、さすがに難しいでしょう。
研究チームもその点を認めており、今回の研究は「可能性を探ることが目的」だと述べています。
アイデア自体は暴論に思えますが、もしかすると、将来これにインスピレーションを受けた本当の解決策が誕生するのかもしれません。
参考文献
Space dust as Earth’s sun shield元論文
Dust as a solar shield