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購入したショップの情報だと、製造推定年代は1850年から1880年頃(19世紀半ば〜後期)のものだそう。
直径は約5センチほどで、握った手のなかにすっぽりおさまる携帯しやすいサイズとデザインです。
文字盤は液体に浮いており、文字盤自体が方向に合わせて回転する方位磁石になっています。恐らく現代の方位磁石にもあるオイル式コンパスと思われます。
メインの素材は真鍮で、上半分がガラスのドーム状。
真鍮の蓋の裏には12カ月の名前と、各時期にどれくらい時間を補正すればいいかが書かれています。
太陽の高度は季節によって変わるため、いつも同じ時刻に同じ影ができるわけではありません。なので、季節によって読み取った時刻に補正が必要です。
何分足したり引いたりすればいいかが、蓋の裏を見ればわかるようになっているわけです。
さらに、本体側面のツマミを動かすと文字盤の動きをとめることまで可能。安定性が少し悪いところに置いたときや、緯度が異なる場所で使うときに調節できるのかもしれません。
なお、同年代頃の日本製の携帯式の日時計はどうだったのか「江戸時代 日時計」で検索してみると、日時計に方位磁石をセットにしたような造りです(画像の右上と中央、右下の日時計)。
このイギリス製の携帯日時計のデザイン性の高さに驚きます。
棒や三角形の一辺の影の位置から時刻を読みますが、この時計の針としての役割を果たすものを「指時針(ノーモン)」といいます。
日時計はさまざまなタイプがありますが、今回はその中から見たことがありそうな「水平式」「垂直式」「コマ型」「柱型」について紹介します。
まず、今回レビューの携帯式日時計は水平式日時計と呼ばれる、日時計としてはもっとも一般的なタイプ。
ダイヤルフェイスないしダイヤルプレートと呼ばれる円形の文字盤が水平(地面と平行)になっており、三角形のノーモンが付いています。
文字盤の目盛りは三角関数を使用して計算されるため、均等になっていません。1台で日の出から日没まで使用できる特徴があります。
次にポピュラーなのはヨーロッパで多く見られる垂直式日時計です。
文字盤が地面に対して垂直になるタイプで、建物の外壁などに設置されます。
映画『耳をすませば』のおじいさんのお店の壁にも描かれていますが、気づいた方もおられるでしょうか?
以前に野辺山の天文台に行ったときに見たのが、この垂直式日時計だと思います。
文字盤の目盛りが均等でないのは水平式日時計と同様ですが、こちらは1日12時間しか使用できません。
コマ型日時計は、その名の通り、形状がコマに似ているものが多い日時計です。
ノーモンが天の北極(北半球だと北極星)を向いているのが特徴で、文字盤は赤道に並行、文字盤の目盛りは均等になっています。
太陽の位置により、春分から秋分は表面に、秋分から春分は裏面にできる影で時刻を読み取ります。
柱型日時計は水平の文字盤に棒状のノーモンを立てたもの。
日時計は、今から6000年ほど前にエジプトで生まれ、地上にまっすぐ棒を立てて影の位置や長さで時刻を計っていたと考えられています。
なので、柱型日時計がもっとも原型に近いのかもしれませんね。古代ギリシャで使われていたのも、柱型日時計だったといいます。
柱型日時計は、ノーモンの影の先端が指した時刻を読みます。文字盤の表記がごちゃつくものの、あらかじめ季節によって変わる太陽の位置に合わせて時刻線を書いておけばその通り読むだけでよく、時刻の補正が不要というメリットがあります。
いよいよ、実際にちゃんと時刻が計れるのか試そうとしたところ、問題に気づきました。
ほかの方位磁石と比べると、針の示す方角が逆になっています。恐らく輸送中に電子機器など磁力の強い物の近くに置かれたのでしょう。
なので、自分で直すことにしました。狂った方位磁石は、簡単に直せるんですよ。
小学生の理科の実験で、釘や鉄の棒を磁石でこすって磁石にしたことはないですか?
磁石で釘や鉄の棒をこすると、最後にこすりあげた端がこすった磁石の極と反対の極になります。
必要なのは、ネオジム磁石などの磁力が強い磁石。ちなみに100均で購入しました。
ちょっと磁力が弱いかなと思ったら、磁石を複数くっつけて使うと磁力がアップします。
Credit: ofugutan / 狂った方位磁石を直してみました
磁石を方位磁石の針に近づけ、回転させないように気をつけながら磁石を方位磁石の針の上に一直線に動かします。
これはドーム状だったので難しかったですが、何度か試して成功。上が平らな方位磁石なら、簡単にできるはずです。
方位磁石が家にあるけど狂ってしまったという人は、買い替えをせずに試してみてください。
イギリス用に作られたものですし、日本は緯度が異なるので、「本当」の精度を見るには本体を少し傾けて角度を調整するのが正しいです。
もっと細かいことを言うと、日本の標準時は東経135度の地点を基準にしているので、私のいる都内の東経約139度のズレも考慮する必要があります。
しかし面倒くさいし、実用するならどれだけ日時計の時刻とそのときの日本の標準時がどれだけ違うか把握できればいいので気にしないことにしました。
9月25日の10時に時刻を計ってみました。方位磁石を方角に合わせてから、影の位置を見ます。
ノーモンの影の外縁が文字盤の目盛りにかかっているところを読むので、日時計は10時30分を指しています。
なお、1月後と2月後に計ってみたところ、標準時刻との差はだいたい20分から30分ほどでした。
これくらいの時間の差ならば、かなり使える印象です。
この日時計を持って、自身もアンティークの日時計を私物として持っているという高円寺にあるアンティークショップ『RECULIO』の店長にお話をうかがってみました。イギリスの19世紀半ばは、すでに機械式の携帯時計も使われていたそう。
ただ、携帯式の日時計も併用して使われていたとのことです。
当時はまだ機械式の時計の精度が良くなかったのでしょうね。また、携帯式の日時計は、精度よりも晴天のときしか使えないことの方が不便に感じました。
うっすら太陽に雲がかかった程度でも、だいぶ影が薄くなって見えにくいです。
この19世紀の携帯式日時計のノーモンは三角形をしています。
しかし、少し前の18世紀の携帯式の日時計は、このようにノーモンが細いひものような造りでした。水平式日時計ではなく、垂直式日時計のようなデザインですね。
大航海時代の16世紀頃の携帯式日時計のレプリカという製品もこれとそっくりだったので、長い間使われてきたデザインなのだと思います。
開閉式の折りたたみ構造で携帯性に優れていますが、何度も開閉するうえに細いノーモンは傷みやすく、アンティークとして市場に出てもノーモンがなくなっていたり、文字盤の印刷が擦り切れて読みにくくなっていたりします。
ノーモンが細い方が文字盤のピンポイントな位置を指すので精度が高く時刻を読み取れそうですが、頑丈性や安定性など合理的な理由のために、三角形のノーモンになっていったのでしょう。
日時計の種類を調べた際、携帯式日時計がひとつのジャンルとして取り上げられているものもあり、そこでは占星術的な用途も兼ねたアクセサリーとしても使える日時計が紹介されていました。
携帯式の日時計は、最初は実用的な意味合いは低かったのかもしれません。
しかし、人が広範囲に移動するようになった大航海時代に時計の重要性が増し、実用性が求められて大きい日時計のミニチュア版が携帯式として使われるようになったのではと推察します。
精巧な造りと、意外と使えるということに驚きました。また、100年以上前の機器が今でも壊れずに存在していて、実際に使用できるのは感動します。また、当時は平民の自分は触れられないお金持ちの所持品だったはず。
道具は実際に使ってこそなので、ときどき持ち出して楽しもうと思います。
吉祥寺の『鉱物Bar』の企画「天体嗜好症展」で2月26日(日)まで展示中です。ほかにもコレクションから珍しい天文系のアンティークを貸し出しています。
また、この『鉱物Bar』では2月25日(土)には実際に物に触ってもらいながら解説するトークライブがあるそうです。
興味のある方は足を運ばれてみてはいかがでしょうか?
#天体嗜好症 展Specialな夜
2/25土17時〜博物蒐集家であり星空案内人®︎や科学ライターとしても活動している編集者ofugutan(今井麻裕美)さん @Mayu_I_ofugutan
ゲストに天体アンティークの魅力や歴史など四方山話を愉しみます。鉱物菓子&飲物付き4000円
所要2h希望の方dmかメールを#鉱物Barpic.twitter.com/WyramkWdvF
—鉱物Bar by 鉱物アソビ2023年末迄は営業 (@KoubutuAsobi) February 4, 2023
参考文献
Todd Lowrey Antiques https://toddlowrey.com/?pid=168420569 Sundials ON THE INTERNET https://www.sundials.co.uk/types Wikipedia 日時計 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%99%82%E8%A8%88 セイコーミュージアム https://museum.seiko.co.jp/collections/timepieces/collect001/