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この泉が最初に文字として記録されたのは、井戸の名前の由来にもなったとされる人物、ヤコブ・デ・コルドバ(Jacob de Cordova、1808〜1868)が書いた19世紀の本です。
彼は1839年にイギリスからテキサス州へと移住し、この地域で最初の不動産業者の一人になりました。
彼の本には「井戸は完全に丸く、あたかも熟練した芸術家が固い岩から切り出したかのようで、水はとても澄んでおり、針のような小さなものを落としても肉眼で見える」と書かれています。
ただこれは、ヤコブが移住者たちに対して、井戸のある当地に引っ越すよう宣伝する意味合いもあったようです。
一方で彼以前に、ヤコブの井戸は数千年もの間、地元のアメリカ先住民たちによって崇められてきたことが知られています。
それから、もう一つの名前の由来としては、旧約聖書の『創世記』に登場するヘブライ人の族長ヤコブが涸れることのない井戸を掘ったことに由来する説があるという。
記録によると、20世紀初めのヤコブの井戸では、まるで噴水のように勢いよく水が湧き出しており、今日のように潜ることは困難だったそうです。
しかしその後、湧出量がかなり落ち着いたことで、人々や野生動物が水浴びに訪れるようになりました。
大抵は井戸の縁でくつろいだり、涼むだけでしたが、やはりと言うべきか、ヤコブの井戸の中に飛び込んだり、潜っていく命知らずが現れはじめます。
では、ヤコブの井戸の奥は一体どうなっており、どれほど危険なのでしょうか?
泉の内部は、ヤコブの井戸探査プロジェクト(Jacob’s Well Exploration Project)の調査により、かなり多くのことが分かっています。
まず、川底の直径約4メートルの開口部から垂直に10メートルほど降りていくと、そこから横に水中洞窟が広がっています。
洞窟内は2本の主要な通路からなっており、1本目は約1300メートル、2本目は約300メートルの長さがあるとのこと。
ただその通路の途中には、分岐点や細い通路、小さな空間が入り乱れており、地下迷宮のような様相を呈しているといいます。
そのため現在は、ライセンスを持ったプロのダイバーだけが穴の先の水中洞窟の探検を許可されています。
こちらはダイバーが穴から洞窟付近まで降りていったときの様子。
これを見れば、井戸の中のおおよその概観がつかめるでしょう。
しかしこれ以前には、ヤコブの井戸に入ったダイバーが命を落とす事例がいくつも報告されていました。
公式に知られている限りでは、1964年から1984年の間に9人(男性8人と女性1人)が死亡しており、2000年までに他にも死亡者や行方不明者が出ているという。
この地域を訪れる人の割合からすると非常に多いため、いつしか「世界で最も危険なダイビングスポット」と呼ばれるようになりました。
死亡者の中には、洞窟内の隙間から出られなくなったり、狭い空間に閉じ込められた状態で見つかった例もあります。
実際、ヤコブの井戸の中で命を落としかけて、九死に一生を得た映像が残されていました。
こちらのビデオは、テキサス州サンアントニオ出身の男性(21)が井戸の中ででフリーダイビングをしたときのものです。
映像内では、洞窟内で片方のフィンを落としてしまい、水面に戻るためウエイトベルトを切り離す瞬間が記録されています。
焦りと息切れから来る呼吸音の乱れが、とても生々しく録音されています。
男性は当時を振り返って「一瞬、死が自分の眼前に迫っているのを感じた」と話しています。
参考文献
Jacob’s Well — one of the most dangerous diving spots in the world
https://www.zmescience.com/other/feature-post/jacobs-well-texas-dangerous-diving/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部