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一部の生物には共生(相互関係をもちながら生活すること)が見られます。
例えば、ヤドカリと小型イソギンチャクは共生しています。
ヤドカリは毒をもったイソギンチャクを貝殻につけて身を守っており、イソギンチャクの方もエサのおこぼれをもらうのです。
もし終末世界のように多くの生物が絶滅し、資源も枯渇している状況になれば、人間も共生できる生物を見つけ出す必要があるかもしれません。
リーピンス氏は人間の共生対象として、飼育動物の生餌にされる「ミールワーム」に着目しました。
スタンフォード大学(Stanford University)の2015年の研究と2019年の研究では、一般的なミールワームが日常的に使用されるプラスチック「ポリスチレン」を食べて消化できると報告されています。
しかも体内に有毒成分を蓄えることがありません。
このことは、廃プラスチックを与えたミールワームが、動物や人間にとって貴重な食料(タンパク源)になる可能性を示しています。
そこでリーピンス氏は、人間とミールワームが共生できる一体型スーツ「昆虫スーツ」を開発しました。
この体全体を覆うスーツの腹部には、ドーム型のテラリウム(飼育器)が埋め込まれています。
その中では複数のミールワームが飼育されており、人間から排出された熱と湿気が供給されるようになっています。
さらにテラリウムの中には、食料として廃プラスチックが投入されています。
つまりミールワームは人間の体温と人間がつくり出した廃プラスチックで成長・繁殖していくのです。
荒廃した世界には廃プラスチックもたくさん転がっていることでしょう。
そんなゴミを利用してミールワームを育成し、人間は成長したワームをスーツから取り出して貴重なタンパク源として摂取するわけです。
そのためこのミールワームは、人間に「食料」と「廃棄物問題の解決」という2つのメリットを提供してくれます。
まさに人間とミールワームの共生が昆虫スーツによって可能になっているのです。
ちなみに、昆虫スーツのプロトタイプは、2020年11月に英国の北に位置するデンマーク領フェロー諸島で実際にテストが行われました。
このテストではかなり寒い環境だったにも関わらず、スーツ腹部の飼育器に入れらたミールワーム200gは1時間あたり3~5mgのポリスチレンを分解しすくすくと成長しました。
100匹のミールワームと共生したケースでは、1日で39mgのポリスチレンを分解できたようです。
ここからは本来ミールワームが育成するには過酷な環境であっても問題なく生存可能なことや、廃プラスチックを食べて育成可能なことがわかります。
ポストアポカリプス的な世界における実用性はまだ不明ですが、人間との「共生」というテーマについては見事に達成したと言えるでしょう。
その証拠に、優れた教育的アイデアを表彰する「Design Educates Awards」のユニバーサルデザイン部門では、このアイデアが2022年の銀賞を受賞しました。
ちなみに開発された昆虫スーツは、雨風や放射線、空気中の病原体に対する防護機能が備わっており、過酷な環境にも対応できるのだとか。
ちょっと気持ち悪いですが、文明崩壊後の世界ではこうしたものに頼って生きていかざる負えなくなるのかもしれません。
廃プラスチックを食べるミールワームは他にいくつか研究報告があります。
実際発泡スチロールを食べる様子なども公開されているため、虫が苦手でない方は下の記事も参照してみてください。
参考文献
‘inxect suit’carries plastic-eating mealworm colonies, sheltered by human body heat
https://www.designboom.com/design/inxect-suit-plastic-eating-mealworm-colonies-pavels-liepins-10-10-2022/#
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部