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さらに調査を進めると、親個体の約45%が1つ目の卵を放棄し、触れることすらしませんでした。
他種のペンギンは一般に、石や枝、草を使って巣を作り、その中に卵を置きますが、シュレーターペンギンの90%以上は1つ目の卵を岩場の上に産み落とし、そのまま放置していました。
しかも岩場のほとんどは水平でないため、卵が転がり落ちて、割れることもあったのです。
巣の中に産卵した場合でも、1個目の卵は2個目を産む前か後の時点で巣から無くなっており、親が意図的に割ってしまうケースも確認されました。
シュレーターペンギンは明らかに1つ目の小さな卵を拒絶していたのです。
これらを踏まえてチームは、シュレーターペンギンの両親が2羽のヒナを同時に養えないために、サイズが大きくて抱卵(親鳥が卵を温めること)しやすい2個目の卵を繁殖に選んでいる可能性が高いと指摘します。
デイビス氏によると、シュレーターペンギンの親は沖合に出て採餌をするため、泳ぎながらではたくさんの餌を持つことができず、2羽分の十分な食料を持ち帰れないといいます。
また沖合に出るのはシュレーターペンギンにとって非常に危険なことであり、何往復も餌を取りに行くことはできません。
少ない食料で2羽とも育てて両方死なせるよりは、孵化率の高い大きな卵の方を確実に育てようと考えているのかもしれません。
「それなら大きな卵を一つだけ産めば良いのではないか」とも思いますが、チームはその点について、「2個の卵を産んで孵化させるという祖先の繁殖習性をそのまま受け継いでいるためではないか」と推測します。
しかし今日のシュレーターペンギンは、2羽のヒナに十分な餌を与えることができないため、1つ目の卵をあえて犠牲にしているようです。
これと別にチームは、シュレーターペンギンの血液サンプルを採取して分析したところ、興味深い事実を見出します。
他種のペンギンでは通常、繁殖期間の始まりに、オスのテストステロン(男性ホルモン)値が高く、メスのテストステロン値が低くなります。
ところがシュレーターペンギンはその逆で、オスのテストステロン値は繁殖期間に低く、メスはオスと同じか、それ以上に高かったのです。
その証拠に、繁殖シーズンのシュレーターペンギンのオスは非常に大人しく、ライバル間の争いもありませんでした。
他種のペンギンは、繁殖期になるとオス同士が攻撃的になり、互いにバトルが頻発します。
一方で、その後の抱卵期間になると、今度はメスのテストステロン値が下がり、オスのテストステロン値が上昇しました。
これはオスが巣や抱卵中のメスを守るのに役立っているのかもしれません。
シュレーターペンギンは、地球上のすべてのペンギン種の中で、その孤立性から最も研究が進んでいない種です。
孤立性ゆえに人間の活動からはある程度守られているのですが、温暖化の影響により、種の存続の危機に瀕しています。
シュレーターペンギンは過去50年間で数が激減しており、すでに絶滅危惧種にも指定されています。
デイビス氏は次のように話しました。
「シュレーターペンギンについては、ほとんど何もわかっていないと言っても過言ではなく、いまだ多くの謎に包まれています。
手遅れになる前に、シュレーターペンギンの生態を詳しく知ることが急務となるでしょう」
※この記事は2022年10月に掲載したものを再編集してお送りしています。
参考文献
In ‘bizarre behavior,’New Zealand penguins lay one egg, reject it, and then lay another. Now, scientists know why.
https://www.livescience.com/erect-crested-penguins-rejecting-eggs-new-zealand
Why erect-crested penguins reject their first egg and lay a second one
https://phys.org/news/2022-10-erect-crested-penguins-egg.html
元論文
The breeding biology of erect-crested penguins, Eudyptes sclateri: Hormones, behavior, obligate brood reduction and conservation
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0275106
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。