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まず、母親によって卵に塗布されたバークホルデリアは、約6日の間、卵の表面に露出したまま、卵にとって有害なバクテリアや菌類を撃退し続けます。
そして、幼虫が孵化すると、バークホルデリアは、幼虫の背中にある3つのヒダの中に集められるのです。
ヒダはまるでポケットのように機能し、バークホルデリアを保護していました。
また、研究者によると、ヒダにある腺細胞の分泌物がバークホルデリアの栄養源になっているといいます。
さらに、この背中のポケットは、幼虫が蛹に変態する中でも維持されていました。
蛹化する過程で、外皮がどんどん固くなるのですが、ヒダの形は残され、その中にバークホルデリアも匿われていたのです。
このとき、蛹の中身からバークホルデリアは検出されなかったため、体内には移動していないことが確認されています。
その後、L. ビロサは成虫として羽化を開始しますが、不思議なことに、ヒダ中のバークホルデリアは、成虫の腹部先端(生殖器部分)にそっくりそのまま移動していたのです。
チームはこれを検証すべく、バークホルデリアと同サイズ(幅1.0μm)のポリスチレン製蛍光ビーズを発育中の蛹に付着させ、脱皮時の移動プロセスを可視化しました。
すると、ほとんどのビーズが、蛹の脱皮線に沿って後方に移動し、最終的には、成虫の腹部先端に集まったのです。
しかし、これと並行して、興味深い事実も発見されました。
それは、ここまで述べてきた変態中のバークホルデリアの保護と移動が、メスでしか見られなかったことです。
そもそも幼虫の段階で、背中のヒダの大きさがオスでは小さく、バークホルデリアの数もメスよりずっと少なくなっていました。
さらに、その傾向は蛹の段階でより顕著になり、オスの蛹には、もはやヒダのポケット部分がほぼなくなり、バークホルデリアも激減していたのです。
こちらの図を見れば、それがよくわかります。
研究者いわく、これはバークホルデリアが主に、卵を感染症から守ることに特化しているからです。
考えてみれば、バークホルデリアが背中のポケットに入った時点で、幼虫や蛹の健康維持のためにはほとんど働かなくなります。
次にバークホルデリアが必要となるのは、メス親が卵に塗布するときです。
これを踏まえると、なぜバークホルデリアがオスで少なく、メスで多いのかが理解できるでしょう。
研究主任の一人で、コペンハーゲン大学(University of Copenhagen)のラウラ・フローレス(Laura Flórez)氏は「成虫の段階でバークホルデリアを保持しておく目的は、次の世代への受け渡しを成功させるためでしょう」と説明します。
また、ヨハネス・グーテンベルク大学マインツのレベッカ・ヤンケ(Rebekka Janke)氏は「バークホルデリアの生物学的な重要性が、宿主をして、変態時に細菌を保護するための構造(ポケット)を進化させた可能性が高い」と述べています。
共生細菌は、子孫繁栄を願って受け継がれる”贈りもの”だったようです。
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参考文献
Beetles Have A Clever Way to Keep Symbiotes Safe During Their Metamorphic Contortions
https://www.sciencealert.com/beetles-have-a-clever-way-to-keep-symbiotes-safe-during-their-metamorphic-contortions
Beetles rely on unique ‘back pockets’to keep bacterial symbionts safe during metamorphosis
https://phys.org/news/2022-08-beetles-unique-pockets-bacterial-symbionts.html
元論文
Morphological adaptation for ectosymbiont maintenance and transmission during metamorphosis in Lagria beetles
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2022.979200/full
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部