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調査にあたってはまず119人の被験者が募集され、猫を飼った経験や一緒に過ごした年月に加えて、自分がどれだけ猫の行動や仕草に詳しいかを自己評価してもらいました。
同時に被験者たちには心理テストを受けてもらい、協調性・誠実性・外向性・神経症・開放性に関する評価が行われました。
人間側の調査が終わると、いよいよ猫との「触れ合いタイム」が開始されます。
被験者たちは見知らぬ3匹の猫と引き合わされ、5分の間、近づいてきた猫を自由に触る権利が与えられました。(※自分から猫を追いかけることは禁止されていました)
被験者たちと猫の触れ合いはビデオに記録され、研究者たちの分析にまわされます。
すると意外な結果が明らかになったのです。
分析において特に注目されたのは、人間が猫のどこに手を触れるかでした。
下図に示したように、一般に猫には顎の下や耳の付け根など触れられると嬉しい「緑色」の部分と、猫によって喜んだり嫌がったり反応が異なる「黄色」の部分、多くの猫が触れられると嫌がるお腹などの「赤色」の部分があります。
研究者たちは「触れ合いタイム」中に被験者たちが猫のどこにどれだけ触ったかを測定し、被験者たちに答えてもらったアンケート内容と比較しました。
事前の予想では、猫に詳しいと答えた人は主に「緑色」部分に触れる機会が多く、詳しくない人はうっかり「赤色」部分に触れてしまう機会が多いと思われていました。
しかし分析を行ったところ、猫に対する知識や経験が高いと自己評価した人ほど、猫が喜ぶ「緑色」だけでなく、猫が好まないと感じる「赤色」部分にも触れてしまう傾向があったのです。
一方で、猫に詳しくないと自己評価した人たちや仕事で動物に関わる機会がある人たち(獣医などのプロ)は、猫が好む「緑色」の部分を中心に触れており、猫が嫌がる「赤色」部分に手を伸ばすケースは稀でした。
この結果は猫に対する知識や経験などの自己評価が猫たちに思いもよらない負担をかける要因となりうることを示します。
そのため研究者たちは「知識や経験などの要因は、猫を飼うのに適しているかどうかを判断するのに必ずしも適した指標にはなりえない」と結論しました。
また被験者たちの性格特性と猫に触れた場所を比較すると、別の興味深い事実も見えました。
たとえば神経質な性格特性を持つ人々は、近づいてきた猫を抱いたり拘束しようとする傾向が見られたのです。(※高齢の被験者たちも猫を拘束する傾向がありました)
外交的な人は猫とのコミュニケーションにも積極的だった一方で、猫に好まれない部位を触る傾向も高くなりました。
一方で協調性が高い人は、猫の嫌がる部分に触れることが少ない傾向にありました。
この結果を参考にすることで研究者たちは「猫との触れ合いを楽しむための最適な方法を周知する教材が開発できる」と述べています。
また最後に「里親の条件として猫の飼育経験を付加すべきでない。なぜなら適切なサポートを受ければ、経験のない人も猫の素晴らしい保護者になれるから」と述べました。
無類の猫好きだからといって、全身をベタベタ触るのはやめた方がいいかもしれません。
※この記事は2022年8月に掲載したものを再編集してお送りしています。
参考文献
The most experienced cat owners are giving their pets unwelcome affection, study suggests
https://www.ntu.ac.uk/about-us/news/news-articles/2022/08/the-most-experienced-cat-owners-are-giving-their-pets-unwelcome-affection,-study-suggests
元論文
Investigation of humans individual differences as predictors of their animal interaction styles, focused on the domestic cat
https://doi.org/10.1038/s41598-022-15194-7
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。