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犬が親愛を示す手段として「しっぽ」を振ることは古くから知られています。
しかし近年の研究により、しっぽを振る方向には偏りがあり、犬の気持ちとリンクしていることが解ってきました。
犬は嬉しいとき・安心しているとき・飼い主や友達の犬が近くにいるときは、しっぽ振りが右側に偏り、悲しいとき・緊張しているとき・見知らぬ人や嫌いな犬がいると左側に偏るようになります。
しかし既存の研究の多くは人間の観察眼に依存しており、ビーグル犬などの小型犬の高速のしっぽ振りを適切に判断するのは困難でした。
そこで今回、中国科学院の研究者たちは、犬を見知らぬ人と何度も繰り返し会ったとき、しっぽの振りがどのように変化していくか(経時変化)を、人間の目ではなく機械の目で確かめることにしました。
調査にあたってはまず、犬のしっぽの動きを判別するためにモーショントラッカーのデータを用いてAIを訓練しました。
次に10匹のビーグル犬を1日1回5分間、3日間にわたり見知らぬ人間に会わせ、観察された2万1000回のしっぽの揺れをAIに分析させました。
結果、見知らぬ人間に出会った直後(1日目)では、しっぽの揺れが左側に偏っていた一方で、2日目・3日目と接触を繰り返すにつれて、しっぽの揺れが次第に右側に偏っていくことが判明しました。
この結果から研究者たちは、見知らぬ人とはじめて会って犬が緊張したり不安を感じているときには、しっぽは左寄りに振られていたものの、安心して慣れ始めるにつれて、しっぽを右寄りに振るようになったと結論しました。
しかし、いったいどんなメカニズムが働き、しっぽ振りが左寄りから右寄り変化していったのでしょうか?
なぜ人に慣れるにつれて、犬のしっぽ振りは左寄りから右寄りに変化していったのか?
研究者たちは「犬の左右の脳機能の違いがしっぽの振りに反映されている」と述べています。
以前の研究によれば、鳥・魚・カエルなどほとんどの動物では左脳が親愛や愛着などの前向きな感情と関連しており、右脳が恐怖や抑うつなど後ろ向きな感情に関連することが示されています。
そして一般に左脳は体の右側を制御し、右脳は体の左側を制御すると考えられています。
そのため研究者たちは、慣れない相手の前にいるときなど犬の気持ちが後ろ向きのときには右脳が優勢になってしっぽ振りが左側に誘引され、犬の気持ちが前向きになると左脳が優勢になってしっぽ振りが右側に誘引される、と結論しました。
同様の左右非対称な反応は他の生物でも報告されています。
たとえばヒキガエルの場合、ヘビなどの捕食者の情報が左視野(右脳 / 恐怖)に入るとジャンプする確率が高くなり、エサの情報が右視野(左脳 / 食欲)に入ると舌を右側にむけて射出する確率が高まります。
またカメレオンの場合、左目で別のカメレオンを見た場合、体の色が変化して攻撃的になることが報告されています。
さらに鳥の場合には、左目をつかってエサを探し、右目を使って捕食者を警戒することを好むことも報告されています。
どうやら犬のしっぽの振りが犬の気持ちによって左右に偏るのも、犬の脳も左右で担当する機能が異なるからなのでしょう。
もし今度、身近な犬に接する機会があったら、しっぽの振る向きに注意してみると彼らの気持ちがわかるかもしれません。
参考文献
Dogs wag their tails to the right for people they love
https://www.earth.com/news/dogs-wag-their-tails-to-the-right-for-people-they-love/
元論文
Left-right asymmetry and attractor-like dynamics of dog’s tail wagging during dog-human interactions
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004222010197
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部