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ダリやエジソンは、自分たちの仕事を始める前に短くて特殊な睡眠法をとっていました。
スプーンやボールを手に持って眠りにつき、それらが床に落ちて音を立てたときに目を覚ます、というものです。
これにより深い睡眠の初期段階で目を覚まして、ある種の覚醒状態で仕事に取り組むことができました。
この睡眠の初期段階とは、ノンレム睡眠の3つの段階(N1、N2、N3)の最初の段階だと言われています。
人の睡眠は浅い眠りであるレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠を繰り返します。
そしてこの睡眠法とは、「ノンレム睡眠のN1に入った段階で強制的に起きる」というものなのです。
オウディエッテ氏によると、「人間は一晩の睡眠のうち約5%をN1で過ごしているが、この睡眠段階はあまり研究されてこなかった」とのこと。
そのため研究チームは今回、「N1睡眠が与える効果」を調査することにしました。
実験には健康な被験者103人が参加し、「ある数列の最後の1桁を当てる」という数学の問題に挑戦してもらいました。
この問題は、提示されたルールに沿って計算すれば解答できるようになっていますが、実は「隠しルール」も存在します。
もし参加者が自分で隠しルールを見つけられるなら、解答までの時間が大幅に短縮されるようになっているのです。
つまりこの実験では、隠しルールを見つけられるかどうかで、参加者の創造性(つまり斬新な戦略)が試されます。
そして参加者には、最初に問題を解いた後に20分の休憩が与えられ、その後再び問題を解きました。
大切なのは、休憩中に皆がダリやエジソンのようにカップを手に持ったまま目を閉じ、カップが落ちた音で起きるよう指示されたという点です。
この時、参加者の脳波が計測され、N1と創造性の関連性が調査されました。
実験の結果、24人が休憩中にN1睡眠を少なくとも1回は経験しました。
別の14人はN1を通過してより深い睡眠段階に突入してしまったようです。
また残りの参加者はそもそも眠ることができませんでした。
そしてこれら睡眠段階の違いは、試験の結果にも大きく影響しました。
N1で目を覚ました人の83%が隠しルールを発見できたのです。
対照的に眠れなかった人の発見率は31%、またN2に進んでしまった人の発見率は14%でした。
隠しルールの発見率を3倍にまで上昇させるには、すぐに目を覚ますことが条件だったのです。
眠らなくても、深く眠りすぎても効果はありません。
これにより研究チームは、「N1を数十秒味わった段階で目を覚ますという睡眠法には、創造性を高める効果がある」と結論付けました。
現段階で、N1睡眠が創造性を高める理由は解明されていません。
オウディエッテ氏はN1の睡眠段階について、「ある程度意識が残っているが、制御できない状態である」と述べました。
それゆえ、「ゆるやかな認識と奇妙な連想が可能な理想的な状態を作り出しているのではないか」と推測しています。
まどろみが常識の枠組みを破壊して、斬新な発想を与えてくれるのでしょう。
今後研究チームは、N1睡眠がもたらす影響をさらに調査していく予定です。
もしあなたが独創的な発想を求めているのであれば、作業の前にカップやスプーンをもって仮眠することをお勧めします。
もしかしたら、ダリやエジソンが賞賛するほどの偉大なアイデアが生まれるかもしれません。
参考文献
Sleep technique used by Salvador Dalí really works
https://www.livescience.com/little-known-sleep-stage-may-be-creative-sweet-spot
Interrupting sleep after a few minutes can boost creativity
https://www.newscientist.com/article/2300883-interrupting-sleep-after-a-few-minutes-can-boost-creativity/?utm_campaign=RSS%7CNSNS&utm_source=NSNS&utm_medium=RSS&utm_content=news
元論文
Sleep onset is a creative sweet spot
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abj5866
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。