- 週間ランキング
食材を焼くと、当然ながら食材に含まれる水分が飛びます。
しかし水分が失われただけでは、色まで変化しないはずです。
実は私たちが食材を加熱するとき、そこでは「メイラード反応」という特殊な化学反応が起こっています。
食材に含まれるタンパク質と糖が加熱によって結びつき、褐色物質を生み出していたのです。
そしてこのメイラード反応は食材の旨味を凝縮させたり、香ばしさを与えたりする効果があるため、「適度な焦げ」を作ることは1つの調理法として用いられてきました。
実際、黄金色のトーストや炊き込みご飯のおこげ、ステーキの香ばしい焼き色は、多くの人を魅了します。
しかし多くの人が危惧しているように、このメイラード反応では、発がん性が疑われている物質も作られてしまいます。
焦げに含まれる物質のうち、発がん性が疑われているのは次の3つです。
①②は肉を加熱した際に発生するものです。
③はトーストやフライドポテト、コーヒー、麦茶、クッキーなどに多く含まれています。
しかも③は食材に限らず、タバコの煙などのあらゆるものに含まれているとのこと。
そして大切な点として、①②③すべては体内でDNAの一部を破壊し、突然変異を生じさせる(つまりがんを発生させる)おそれがあります。
実際、シンハ氏によると、「①HCAと②PAHはサルを用いた2004年の実験で、③アクリルアミドはマウスを用いた2015年の実験で、それぞれ発がん性が認められました」とのこと。
ところが全体として研究者たちのスタンスは、「焦げががんの原因になるとは断言できない」というものです。
ではなぜ、焦げとがんの関係性は曖昧なままなのでしょうか?
焦げとがんの関係性が曖昧な理由を、シンハ氏は次のように説明しています。
「焦げががんの原因になると断言するには臨床試験が必要です。
しかし発がん性が疑われる物質を使って、ヒトで実験するわけにはいきません」
しかも、これらの物質を数日間摂取したからと言って、すぐにがんになるということはないでしょう。
実際これまでに行われてきた研究も「健康な参加者を10年、20年と観察し、がんになった人と健康な人との違い(食品の調理法など)を比較する」というものでした。
いくらかの傾向は分かるかもしれません。
しかし私たちが日々の食事で摂取する焦げの量はわずかであり、その個人差が本当にどこまでがんに影響したのかをはっきりと理解することは難しいでしょう。
さらにこれまでに行われてきたヒト観察の他の研究結果もまちまちです。
「発がんのリスクはほとんどない」と結論付けたものもあれば、真逆の結論もあるのです。
では結論として、私たちは焦げた食品とどのように向き合っていけば良いのでしょうか?
シンハ氏は次のように述べています。
「焦げで作られる物質が正式に発がん性物質として指定されるにはまだ時間がかかるでしょう。
しかし、潜在的なリスクを軽減させることはできます。
主に、肉や野菜、パンなどを高すぎる温度で調理するのはできるだけ避けましょう。
また焼く以外の調理法もいくつか取り入れてください。
もし焼いたり揚げたりするのであれば、できるだけ暗褐色や真っ黒になるのを避け、黄金色でとどめておきましょう。
そして真っ黒になトーストに関しては、そのまま食べるのではなく、新しいパンと交換するサインだと考えてください」
全ての焦げを気にする必要はありませんが、真っ黒な焦げだけは「発がん性物質かもしれない」と考えるのが丁度良いのかもしれませんね。
※この記事は2021年11月公開のものを再掲載しています。
参考文献
CAN BURNT TOAST CAUSE CANCER? A DOCTOR EXPLAINS THE TRICKY SCIENCE
https://www.inverse.com/science/is-it-okay-to-eat-burnt-toast
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?