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宇宙は空気がない真空に近い状態であり、当然大気圧もほぼありません。
そのため液体の沸点は大きく下がり、水は加熱しなくても蒸発してしまいます。
NASAの科学者であるクリス・レーンハート博士は、人体への影響について次のように述べています。
「人体の60%が水でできていることを考えると、これは深刻な問題だと言えるでしょう。
気圧がない場合、体内の水分は沸騰し気体に変化します。
つまり、水分を含むすべての組織が膨張し始めるのです」
とはいえ、すぐに体が爆発したり、血液が沸騰したりすることはありません。
人体は非常に柔軟で丈夫なので、減圧で膨張はするものの、爆発することはありません。
真空では人体が最終的に2倍にまで膨れ上がると言われており、その過程で臓器に致命的なダメージを与えます。
しかしそれらが瞬時に起こるわけでありません。
実際、真空に近い状態にさらされても生き残った人はいます。
1966年、NASAの技術者であるジム・ルブラン氏は、巨大な真空チャンバーの中で宇宙服のテストを行っていました。
ところがある時点で宇宙服のホースが外れてしまい、意識を失うことになったのです。
すぐに救助されたため、命に別状はありませんでした。
彼は、このときのことを振り返って、次のように述べています。
「意識を失う直前に唾液が泡立ち始めたのを感じた」
これは舌先の水分が沸騰したことを表しているのでしょう。
ちなみに2013年の調査によると、過去の例では、動物と人間は真空状態で10秒以内に意識を失うとのこと。
またそれが一瞬でも影響は大きく、膀胱や腸の機能が失われたり、膨張した筋肉が心臓と脳への血流を妨げたりしました。
レーンハート博士によると、「人間はこの膨張を生き残ることはできません。2分以内に死に至る可能性が高いのです」と述べています。
では血液もすぐに沸騰するのでしょうか?
そうではないようです。
人間の血管には外部よりも高い圧力が加わっているため、すぐに血液が沸騰することはありません。
血液が沸騰するとしたら、それはほぼ死にかけて血圧が大きく下がった場合でしょう。
宇宙空間で人間が死ぬ要因は、膨張だけではありません。
真空状態では肺から空気が抜けてしまうため、数分で窒息してしまうのです。
では、人間が宇宙空間で凍り付いて死ぬことはあるのでしょうか?
答えはNOです。
ほとんどの宇宙空間は-270℃なので、そこにさらされた人体は瞬時に凍るように思えます。
しかし実際には、体温がすぐに放出されることはありません。
なぜなら、そもそも温度の変化とは、「熱を伝える」ことによって生じるからです。
真空では熱を伝える物質が存在しないため、地球上のように、人体の熱が他の物質(空気など)に伝わって失われていくことがないのです。
とはいえ体内の水分の蒸発に伴って、人体から熱が奪われていくのは事実です。
水分量が多い口や鼻周りはうっすら凍るかもしれません。
しかし体の他の部分の蒸発量は少ないため、冷え方はとても緩やかです。
また、あらゆる物体は自身の熱を電磁波として放射し続けています。
人体も例外ではありませんが、この放射もゆっくりと起こるので、一瞬で体が凍ったり、体温低下ですぐに死んだりすることはありません。
今回は、宇宙空間で人体がどうなるのか考えてきました。
ここまでの情報をまとめると、宇宙空間へ出た人間は10秒ほどで意識が失われ、数分以内に酸素不足と膨張で死んでしまうようです。
しかしそれは急激に起きる変化ではなく、ゆっくりと生じるもので即座に命を失うような変化は起きないと考えられます。
そのため短時間なら人間は宇宙空間へ生身で飛び出しても耐えられる可能性があります。
とはいえ意識は10秒程度で失われてしまうことを考えると、「そんな危険を犯すべきではない」のは確かでしょう。
※この記事は2021年11月に公開のものを再掲載しています。
参考文献
What would happen to the human body in the vacuum of space?
https://www.livescience.com/human-body-no-spacesuit
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。