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本籍=サーキット。マクラーレン600LTはしかし一般道もこなせる意外な一面を持っていた


マクラーレンにとって特別な意味のある”LT”をモデル名に与えられた最新スポーツシリーズの600LTが日本初上陸。サーキット志向であることは間違いないが、公道での実力はどうか?




REPORT◉吉田拓生(YOSHIDA Takuo)


PHOTO◉市 健治(ICHI Kenji)




※本記事は『GENROQ』2019年4月号の記事を再編集・再構成したものです。

 黒いアルカンターラ張りのステアリングを託されたのはターンパイクの入り口だった。いつものように斜めに跳ね上がるドアを開け、いつものようにシートにお尻を滑り込ませる。そしていつものように3.8ℓV8ターボを目覚めさせたのだが、背後で蠢くようなノイズだけはこれまでのマクラーレンとはまったく異なるものだった。




 室内とエンジンコンパートメントを隔するバルクヘッドが薄い板切れ1枚に置き換わったかのような生々しいノイズの交錯。CFRP筐体のバケットシートのお陰で振動もダイレクトに伝わってくる。ここにストレートカットのギヤノイズが加われば純粋なレーシングカーの雰囲気すら味わえそうだ。

上方排気レイアウトをとることで大型のリヤディフューザーを装着できた。もちろんこれらもカーボン製となる。

 600LTの異質な感覚は走りはじめてからも続く。流すような走行ペースにも関わらず、4輪が路面に強く張り付いたように感じられるのだ。操舵の感覚もまるでギヤオイルのような粘性に支配されている。クルマに促されるまま、少しコーナリング速度を上げていっても、空気圧センサーは前輪が作動温度に達していないと主張している。




 例えば同じスポーツシリーズの570Sは、低速域では羽の生えたような軽さが車両全体に漲っているが、600LTに柔和な表情はない。似て非なるマクラーレン。果たしてLTとは何者なのか?比較対象が570Sでないことは確かである。




 キーンと冷えた山の上の駐車場で、600LTをまじまじと観察する。LTのアルファベットは「ロングテール」を意味しているのだけれど、実際はCFRP製のリヤバンパーの端が少し延長されている程度。それよりもむしろ、ウイングの直前で地対空ミサイルのスロットのように上方を睨む排気口が気になる。排気管長を短縮して軽量化に努め、同時にリヤディフューザーの大型化に貢献しているのである。



随所にカーボン製エアロパーツが奢られる。
タイヤは専用設計のピレリPゼロトロフェオRを装着する。


 一方フロントはやはりCFRP製の鋭いエアダムが除雪車のように張り出してダウンフォースに対する欲望を剥き出しにしている。路面に張り付くようなフィーリングの源泉はダウンフォースにある?と思った矢先、ほぼタイヤの山がなくなりかけたようなトレッドが目に入った。MC刻印の入ったピレリPゼロトロフェオR。なるほど、謎は解けた。とともにウエット路面ではよほど慎重になる必要があると肝に銘じた。




 山の尾根に沿って緩やかな中速コーナーが連続する伊豆スカイラインは600LTにとって格好のステージだった。シャシーとパワートレインをスポーツモードに切り替え、ペースを上げていっても盤石のグリップは微塵も揺るがない。




 ロードカーにスリックのようなハイグリップタイヤを組み合わせると、とたんにロールが唐突になり、ブレーキングではアシの弱さが露呈してそれとわかるものだが、600LTにはそれがない。シャシーの根幹からブッシュ1個に至るまでトロフェオRに合わせて特別に誂えたような整合性が感じられるのである。



アルティメットシリーズのセナと同様に上方排気エキゾーストを持つ。夜間走行では炎を吹きながら走っていた。

 570㎰から600㎰までスープアップされたV8ターボのレスポンスも上々で、ワインディングで多用する3500から6000rpmあたりまではまったくパワーの谷間がない。6000rpmより上には本当の炸裂が潜んでいるのだが、ツイスティな公道でその領域に踏み込むのは色々な意味でリスキーだ。




 600LTの走りで特徴的なのはスロットルオフ時のバックトルクというか制動が非常に強い点だ。このため中速コーナーの進入ではブレーキペダルに触れることなく最適な前荷重が実現し、微かな操舵でコーナーの曲率にピタリと寄り添うことができる。600LTほど穏やかに姿勢を変化させ、自信を持ってコーナーに飛び込んでいけるスーパースポーツを僕は知らない。タイヤのグリップ自体も見事だが、増加したダウンフォースもシャシー性能もまったく引けを取っていないのである。




 さらに付け加えておくと、夜の走行ではバックミラー越しにエキゾーストから吹き出す炎も確認できた。これは後方排気では実現できなかった刺激といえる。



ホールド性の高いカーボン製フルバケットシートを装備する。サーキットでも確実に体を保持してくれるだろう。

ポルシェの独擅場に切り込める実力

 ドライバーとクルマが一体になれるスーパースポーツという点において、600LTは911GT3によく似ていると思った。優れたベースモデルの骨格を受け継ぎつつ可能な限りの軽量化を施し、コーナリング重視のエアロとハイパワーユニットで武装し、主戦場をサーキットに置く。公道でもある一定以上のペースに持ち込めれば、標準モデルとケタ違いの旨味を味わうことができる。




 ただ600LTの前輪と後輪の動きの統一感や、複数のパーツの集合体という感じのしない塊感を体験してしまうと、911GT3ですら曖昧さを含んだ乗り物に感じられる。コーナーの進入から脱出に至るまで全域で600LTの方が速いスピードを維持できるが、フルスロットルになるタイミングだけ911に分がある、そんな感じだろうか。




 そしてまる一日ワインディングを攻め抜いても、もしくはサーキットのスポーツ走行を連続で数本こなしても、まるでくたびれた表情を見せないという点においても、600LTは911GT3と肩を並べる唯一の存在といえるだろう。



マクラーレンの他のモデルと同様に「ノーマル」「スポーツ」「トラック」の3種類のドライブモードを選択可能。メーターパネルはモード毎に変化する。
「ノーマル」モード


「トラック」モード
「スポーツ」モード


 400㎞ほどの旅の帰り道で少し混みあった高速道路と渋滞した一般道を走る機会もあったのだが、そこでも600LTは意外な表情を見せた。引き締まったアシとPゼロトロフェオRの組み合わせは文句なしに硬い乗り心地なのだけれど「当たりの柔らかいマクラーレン」という伝統はLTにも息づいており、腰が痛くなったり頻繁に休憩したくなったりということはなかった。ただ容赦なく室内に入り込むノイズに関してはパッセンジャー用の耳栓を用意しておく必要があるだろう。「スーパースポーツと一般道」というカテゴリーはずっとポルシェの独壇場だったが、その不可侵領域にもマクラーレンは確実に食い込みはじめているのである。




 911GT3がポルシェ・ファナティックの究極の選択肢であるように、600LTもすでにマクラーレンのポテンシャルを体感し、サーキットに的が絞れて来ているオーナーにこそお薦めしたい1台といえる。もし600LTでも満たされないドライバーがいたとしたら、倍ではきかない資金を用意する必要があるということもお忘れなく。





SPECIFICATIONS マクラーレン600LT


■ボディサイズ:全長4604×全幅1930×全高1194㎜ ホイールベース:2670㎜


■車両重量:1356㎏(DIN)


■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:3799㏄ 最高出力:441kW(600㎰)/7500rpm 最大トルク:620Nm(63.2㎏m)/5500~6500rpm


■トランスミッション:7速DCT


■駆動方式:MR


■サスペンション形式:Ⓕ&Ⓡダブルウイッシュボーン


■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク


■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ225/35R19(8J) Ⓡ285/35ZR20(11J)


■パフォーマンス 最高速度:328㎞/h 0→100㎞/h:2.9秒 CO2排出量:266g/㎞ 燃料消費量:11.7ℓ/100㎞


■車両本体価格:2999万9000円
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