特にやるべき仕事もなくひたすらヒマなため、自宅縁側にて飼い猫のノミ取り作業に専心していると、玄関の呼び鈴がリンッと鳴り、紺色の制服に身を包んだ男が「郵便で~す、速達で~す」と叫んでいる。

速達郵便が来る予定などないはずだが、「はっ。もしや面識ゼロなブラジル在住の大富豪な親戚が亡くなり、その遺産をなぜか小生に相続してほしいという旨の連絡だろうか?」と思ったわたしは、胸踊らせながら玄関へと小走りで向かった。

すると果たして速達郵便はブラジルの伯父さんからではなく「外車王SOKEN編集部」からで、あからさまに落胆しながら開封すると、便箋には以下の趣旨の文言が書かれていた。

「空冷911バブルとは何だったのか? そして今後、空冷911の中古車相場はどうなるのか? それを2000字ほどでまとめよ。謝礼はいちおう支払う」

わたしは「……ふざけるな!」と吠えたうえで便箋をビリビリに破り、狭い庭へと放り投げた。猫が、驚いて隣家の庭へと逃げていった。

伊達軍曹 ポルシェ911 空冷

わたしが吠えたのは、謝礼の額が明記されていなかったから――ではない。

「空冷バブルとは何だったのか?」という一文にぶちきれたのだ。

「何だったのか?」ということは、「空冷911バブルはもうすでに終わっているのだが」と言っているに等しい。

とんでもない、いわゆる空冷911バブルはまだぜんぜん終わってなどいない! というのがわたくしの見立てであるからして、わたしは怒り心頭に発し、便箋をちぎって庭に投げ捨てたのだ。

だが2、3分ほどしてやや冷静になると、「そう言われてみると、『空冷911バブルは終わった』という見方もできなくもない」ということに思い至り、そして同時に金額は不明だが「謝礼」もいちおういただきたいと強く希求したため、わたくしは風に舞った便箋の欠片を拾い集めた。そして四畳半の和室にある木製の机に向かい、ぺんてるの筆ペンを手に取った。

以下はその日、外車王SOKEN宛てに書いた手紙の写しである。

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拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、お問い合わせの「空冷911バブル」についてですが、小生は今のところ下記のような存念を抱いております。

それすなわち、バブルというのは「完全に終わってから」初めてそれが認識され、そしてネーミングされるものだ――ということです。

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