はじめに
新型コロナ感染症拡大の影響で、今年のクリスマス、とりわけ夜景やイルミネーションを巡る環境は大きく変化しています。「三密を避ける」が大前提で、穴場だけれど満足感のある東京夜景(番外編あり)を、夜景評論家として約30年のキャリアをもつ私がご紹介します。クリスマスはもちろん、ぜひ夜景の美しい冬のシーズンに訪れてみてください。
Text&Photo:丸々もとお
映画館のプレミアムシートで見るような特別感。「隅田公園 紫陽花ロード」
隅田川散策が好きで、歩いて見つけた穴場です。多くの方は浅草近く、吾妻橋付近の河川敷で壮大な東京スカイツリーを眺めると思いますが、こちらの場所は隅田川を上流に向かって左側を歩き、タリーズコーヒーを過ぎてさらに進んだ言問橋(ことといばし)の手前。あれ? 何か不思議な建物が見えてきます。箱のようなオブジェのような建物で、2階に上るとカップルシートが2つだけ。が、驚くことなかれ。振り返った眼前には東京スカイツリーのライトアップがドーン! と展開。映画館のプレミアシートのような特別席から見上げる勇姿はなんと贅沢なことでしょう。本当に教えたくない穴場中の穴場です。
◆隅田公園 紫陽花ロード
住所:台東区花川戸2-1
アクセス:電車:東武スカイツリーライン/都営浅草線/東京メトロ銀座線浅草駅より徒歩約5分
色彩豊富なネオンに心華やぐ「KIRIKO TERRACE(キリコテラス)/東急プラザ銀座」
伝統工芸である江戸切子をモチーフに取り入れた外観デザインが美しい「東京プラザ銀座」。その屋上には銀座エリアを見下ろす展望スペース「KIRIKO TERRACE(キリコテラス)」があります。地上56mからは数寄屋橋の交差点を眼下に、銀座エリアの商業施設ビル群が展開。艶やかな街を歩く人々はミニチュアのようで、都会の箱庭のようなイメージで撮影してみても面白いです。そして、夜景としての醍醐味はなんといっても色彩豊富なネオン。まばゆい極彩色の光群は気分をぐんぐんと高揚させ、明日への活力が漲ってくることでしょう。冬に温まりたい、元気を出したい人にはぜひ。
◆東急プラザ銀座
住所:東京都中央区銀座 5-2-1
電話:03-3571-0109(受付時間 11:00~21:00)
KIRIKO TERRACE営業時間:11:00~21:00
アクセス:電車:東京メトロ各線銀座駅より徒歩約1分
今年誕生した橋からの新・東京夜景「築地大橋橋詰広場付近」
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、隅田川に架かる橋梁群のライトアップは大幅にリニューアルされました。隅田川沿いに訪れる機会が少ない方には馴染みのない場所ですが、まさにここに「新・東京夜景」が広がっているんです。勝鬨橋(かちどきばし)は緑と青のライトアップから青と白に変わり、清洲橋はピンクから白色に変更。ライトアップされていなかった佃大橋は緑と青で光輝いています。一方、隅田川に今年新たに誕生した橋が「築地大橋」。築地市場の跡地周辺と豊海水産埠頭を結ぶ洗練されたデザインの橋梁で、夜間は青と白でライトアップ。展望スペースもあり、東京湾から流れてくる潮風も心地いい。竹芝周辺の開発著しい夜景と共に、新たな時代の息吹を感じさせる夜景です。
◆築地大橋
住所:中央区勝どき5~同区築地5
牧歌的なパノラマをじっくり楽しめる「防人見返りの峠(多摩)」
万葉集に「赤駒を山野に放し捕りかにて 多摩の横山徒歩ゆかやらむ(訳:赤毛馬を山野に放し飼いにしてしまって捕まえられないので、夫に多摩の横山を歩いて行かせることになるのか)」と、防人となる夫の身を案ずる妻の歌があります。ここはまさにその土地。唐への防衛体制を整えるために九州沿岸に東国から防人が徴兵され、この峠のある尾根道は防人とその家族の別れを惜しむ場となったと言われているのです。確かにこの道は視界が開けたパノラマが楽しめることで、故郷との別れには象徴的だったかもしれません。眼下には多摩丘陵と多摩ニュータウンの夜景。決して派手な夜景ではありませんが、生活の灯による牧歌的な光景で、光と闇の陰影がイマジネーションも想起させてくれます。今年一年を振り返り、来年への希望や夢をじっくりと考える、そんな夜景スポットと言えるかもしれませんね。
◆防人見返りの峠
住所:多摩市永山7-12
アクセス:電車:小田急電鉄多摩線唐木田駅より徒歩約10分
(番外編)“東洋のドーバー”で至極の夕日と夜景を「刑部岬(ぎょうぶみさき)」(千葉)
「防人見返りの峠」のような丘陵も良いですが、車に乗って、ちょっと足を伸ばして楽しみたい自然の穴場夜景は東京以外にも沢山あります。そのひとつが、ここ千葉県旭市の刑部岬です。“東洋のドーバー”と称される屏風ヶ浦の高台に展望台があり、九十九里浜の海岸線と漁港の夜景がすっきりとパノラマ的に展開。「日本夜景遺産」に認定されているだけでなく、西側に展開するため夕暮れも抜群で、夕陽の名所としても知られています。漁港の光は大海原で戦う漁師さんたちの生命力溢れる光。光量は少ないものの、不思議とパワーチャージができるでしょう。湾曲する美しい海岸線が眺められる場所として本州では貴重な存在。素敵な思い出が作れること間違いなしです。
◆刑部岬
※以下、「飯岡刑部岬展望館~光と風~」情報
住所:千葉県旭市上永井1309-1
電話:0479-57-1181
アクセス:車:東関東自動車道大栄ICから約60分
おわりに
番外編の夜景スポットのように、三密を避けて楽しめる場所はまだまだ沢山あります。冬の夜景の代表格であるイルミネーションもその例に漏れません。「あしかがフラワーパーク」(栃木)では感染症対策をしながら、今年のゴールデンウイークに見られなかった藤棚をイルミネーションで演出、「伊豆ぐらんぱる公園」(静岡)の「伊豆高原グランイルミ」ではスマホのARを活用して宝探しをすることで楽しみながら密を避けるような取り組みを展開、「さがみ湖イルミリオン」(神奈川)では三密を避けるためにエリアを拡大し、リフトに乗った先にある山上エリアに新エリアを造成。ポケモンのキャラクターで誘うことで、家族連れの三密を回避させています。屋外で楽しめる夜景&イルミネーションに訪れて、コロナ渦で暗くなった気分を明るく、そして来年への希望を抱いてみてはいかがでしょうか。
◆丸々もとお
夜景評論家、夜景プロデューサー、イルミネーションプロデューサー、(一社)夜景観光コンベンション・ビューロー代表理事。1965年生まれ。立教大学社会学部観光学科卒。1992年『東京夜景』上梓。日本でも唯一無二の夜景評論家として本格的活動を始める。夜景の美しさを景観学、色彩心理学などをベースに評論する等、夜景の本質を浮き彫りにする独自の「夜景学」の構築に取り組んでいる。夜演出については世界でただひとりギネス世界記録を3つ同時取得。夜景に関する著書は50冊以上。近作に、『日本夜景遺産 15周年記念版」(河出書房新社)、『日本のイルミネーションBest」(廣済堂)等がある。 ほか、「丸々もとおのスーパー夜景サイト」の運営や講演・ネット等で活躍中。神戸市、横浜市、長崎市、川崎市、周南市等で夜景観光アドバイザーを歴任。「夜景観光士検定」総監修。日本初の工場夜景クルーズを手がけ「かながわ観光大賞」を受賞。イルミネーションのプロデュースを年間数十カ所手がけ、ライトアップに「出島」「国宝・大浦天主堂」、「中町教会」、「北九州アイアンツリー」等多数。※商標登録『夜景評論家』第4408194号