エアアジア・ジャパンは10月5日、12月5日付けで全路線を廃止することを発表した。
同社はエアアジア・グループのうち、名古屋/中部発着の国内線3路線と名古屋/中部〜台北/桃園線を運航していた。名古屋/中部〜福岡線は8月1日に開設したばかりだった。国内線3路線は、10月1日から24日まで全便を運休する。同社の発表によれば、その後も廃止日まで運休を続ける見通し。
一方で、エアアジア・グループ関連会社(エアアジアX、タイ・エアアジアX、タイ・エアアジア、エアアジア・フィリピン)の日本路線への影響はないと強調。マレーシア、タイやフィリピンと日本との間の国際線は、関連する出入国規制が緩和され次第、再開する予定だとしている。
しかし、「Now Everyone Can Fly」をキーフレーズとして掲げるエアアジアのビジネスモデルが、少なくとも日本においては、新型コロナウイルス感染拡大による渡航制限や社会情勢の変化に対応しきれなかったことを裏付ける形になってしまったのは事実だ。
コロナ禍を経て「密」前提のLCCビジネスは成り立つのか?
LCCはLow Cost Career、つまり日本語で格安航空会社は、日本国内の航空会社では、エアアジア・ジャパンに加え、一般的にジェットスター・ジャパン、ピーチ・アビエーション、春秋航空日本を指すことが多い。
全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)などの航空会社(LCCと対照的にFSC:Full Service Careerと呼ばれる)、スカイマークなどと同じように、LCCでも、航空機の安全運航に対するコストは変わらない。LCCの大きな特徴は運賃を抑え、運航に直接関係しない、手荷物の預け入れや座席指定などの付加サービスに対し課金するシステムにある。
しかし、基本的な運航コストが変わらない以上、運賃を抑えるためには、どれだけ1つの便に多くの乗客を載せるか、"詰め込み"型の座席配置における「搭乗率」がLCCのビジネスに直結してくることになる。
他の航空会社(に限らず、一般的な交通機関)も同様であるものの、ANAやJALなどでは、国際線への乗り継ぎ客の存在や、マイレージ会員に対する特典航空券(無料航空券)を提供したり、単独では採算が取りづらい路線に対し国土交通省などから補助を受けていたりなど、LCCほど搭乗率に直結するものではないことと対照的になってしまう。
そして、この搭乗率を高めることは、「密」と隣り合わせとなることを意味する。旅客はマスク着用が実質義務化され、航空機内は換気されているとは言え、なるべく人混みを避けるようになった社会において、高い搭乗率前提のLCCビジネスの成立がこれまで以上に難しくなるのではないか。
また、各航空会社は感染症対策のための消毒などをアピールしているが、これらは運航コストに直結してくる。2019年12月期で春秋航空日本が27億円、2020年3月期ではピーチが94億円、同6月期でジェットスター・ジャパンが77億円の赤字を計上している。事業継続のためには各社とも厳しい情勢の中、多くの乗客を運び、コストを回収していかなければいけないだろう。
「Go To トラベル」に乗り切れないLCC
一方で日本国内のLCCビジネスではもう1つの不安要素がある。「Go To トラベルキャンペーン」だ。国が主導する国内旅行需要喚起の施策であるが、LCCにとっては、単純なアドバンテージにはならないという見方が多い。
「Go To トラベルキャンペーン」での旅行は、あくまで旅行会社の利用が前提。旅行会社で交通機関と宿泊施設などをセットで予約することで、メリットを最大限に享受できる。宿泊施設への直接でも割引・支援を受けられる一方で、LCCを直接航空会社に予約しても、「Go To トラベル」の支援は受けられない。
LCCは、「片道8円」など、非常に安価なセールの実施によって公式サイトでの航空券予約が一般的になった。一般的に航空会社に不利とされる旅行会社への座席販売は少なく、現に大手旅行会社であるJTBや日本旅行、近畿日本ツーリストでのLCC国内線利用のツアーは少ない。
旅行会社経由の販売が多くないと、「Go To トラベルキャンペーン」のメリットを直接享受しづらい。羽田空港は以前の賑わいを取り戻しつつあるようにANAやJALが復調傾向であるからといって、LCCは単純に「Go To トラベル」の状況を喜べないのである。
これらのLCCのビジネスモデルを考えると、「Go To トラベルキャンペーン」にLCCは乗り切れていないのではないだろうか。客単価の高い国際線の本格再開やインバウンド需要の復活が厳しい現在、残るLCC3社を取り巻く環境は厳しそうだ。