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「Go To トラベルキャンペーン」をより効果的にする5つの提言【永山久徳の宿泊業界インサイダー】




Go To トラベルキャンペーンのスタートから1カ月半が経過した。開始後1ヶ月で420万人が利用したというが、これは昨年の国内旅行者数のせいぜい1割に過ぎず、せっかくの巨額の予算もこのままでは半分以上余ってしまう計算だ。勢いのつかない理由を現段階で整理しておきたい。


(1)Go To トラベルキャンペーンを使いたくない声の存在


キャンペーンの展開で最も難しいのは、利用したくない人の声の方が利用したい人の声を上回っていることだ。スタート時の世論調査でもキャンペーンを利用したい人は18%に過ぎなかった。



批判の一つはそもそも補助金の規模が大きいのではないかというものだが、例えばリーマンショック後に10%以上販売台数の落ちた自動車業界を救済するために導入されたエコカー減税は初年度6,000億円規模だった。1台につき25万円の補助だったので単純に240万人、国民の2%が恩恵を受けた計算だ。しかしこの政策に対して、特定業界との癒着であるとか、富裕層優遇であるとか、自動車免許を持ってない人には不公平などといった批判が拡がった記憶はない。補助金とはそもそも「消費を牽引できる一部の事業者や消費者に対して、お金の使い先にバイアスをかけ、その産業にレバレッジをかける」ためのものであり、使える人、使いたい人は限定されるのが当然の考えであり、公平の原則とはそぐわない政策だからだ。



既に自動車産業に次ぐ規模に成長した観光業界が90%というレベルで冷え込んでいる状況下で、この規模の補助金はレバレッジ効果を狙うには最低限レベルのものであり、一部の識者が主張する直接給付ではこの数倍の予算が必要になることから、Go To トラベルキャンペーンに無駄遣い批判が起こるのは全く筋違いだった。



もう一つの批判は「開始が早すぎる」というものだ。「ブレーキとアクセルを同時に踏む行為」と揶揄され、新型コロナウイルスの感染への漠然とした恐怖から、そもそも旅行に興味が無い層にまでこの政策に対する批判を許してしまった。これにより、通常の補助金のように経済状況が許される消費者を対象にすれば良いだけではなく、ゼロではないリスクを許容できる「合理的判断のできる利用者」という条件が付加されてしまった。



例えば、私であっても感染した場合にリスクの高い既往症のあるお年寄りにGo To トラベルキャンペーンを勧めることはしない。大人数の親族旅行もまだ早いだろう。交通機関の乗り継ぎの多い行程や、混雑が予想される商業施設やテーマパーク中心の旅行も家族や同行者とのリスク感の共有が必要だろう。いずれにしても旅行者の属性と行先に対するリスクの見極めが必要であり、その判断は行政に求めるものでなく、買い物や出勤と同じく自己判断であるべきなのを、自治体や識者が問題視し、それに不安を感じた層が「自分は旅行には行かない」「旅行者には来て欲しくない」と、一斉に反対に回ってしまった。



そもそも自動車の運転において、アクセルとブレーキはどちらかではなく、数秒ごとに切り替えて使うものであり、今この瞬間運行している数百万台の自動車全てがブレーキを踏んでいることは有り得ない。Go To トラベルキャンペーンはアクセルでもブレーキでもなく、信号機のタイミング調整に過ぎない。「安全軽視、経済優先」との声は感情的なものであったにもかかわらず、それに対して効果的な説明ができず、宿泊施設での検温や安全対策など、目に見える対策を前面に出したことがかえって不安を増長させてしまった側面もあるだろう。




(2)Go To トラベルキャンペーンを使いたくても使いづらい人の存在


キャンペーンの利用が進まないのは、識者や利用者が再三指摘しているような制度設計の不備や手続きが非合理的で煩雑であるにもかかわらず強行スタートしたことによる問題も大きい。そもそも委託費問題で制度設計するべき主体が決まらず、準備期間が半減したのだから見切り発車は最初からわかっていたことだ。それに輪をかけて、東京除外の混乱が追加されたのだからどんな受託者でも混乱を避けることはできなかっただろう。しかし、時間が経過した今でも事業者の混乱は収まらない。事業者登録できているかどうかさえわからない施設、入金日がわからず資金サイクルの目処が立たない施設、一日中コールセンターに繋がらず顧客とのトラブルに繋がる施設…枚挙に暇が無いが、このあたりの事例詳細は多くの関係者が指摘しているので割愛する。



問題はこのスキームが完全に旅行者を無視してしまっていることだ。例えば、登録された事業者リストは法人名であり、顧客が知り得る「屋号」ではない。市営のホテルは事業者リストでは「〇〇ホテル」ではなく「〇〇市」なのだから利用者に分かるはずがない。なのに、事後申請書類には屋号の記載が必要だが法人名の記載箇所は無いなど利用者にはまず理解不能だ。



また、旅行会社の店舗、オンライン旅行代理店(OTA)、直予約など予約経路によってキャンペーンの利用方法がバラバラなのも混乱を招いている。私の経営する旅館でも(予約数は例年の半分以下にもかかわらず)、予約スタッフは顧客からの電話応対で予約方法、適用方法の説明に忙殺されている。



旅行業者、運輸、宿泊施設、観光施設など、それぞれの事情はよく分かるし、システムの都合や開始までの時間的制約があったことにも十分理解できるが、私が年に1度家族旅行する程度のトラベラーならまず理解不能だ。今さらではあるが、すべて事後申請による還付方式に統一したり、現金決済は対象外にするなど、事業者や顧客により方式が違うという混乱を少しでも緩和できなかったものだろうか。現行ルールは残念ながらユーザー無視の、かえって旅行者を遠ざける制度になってしまっている。宿泊施設の登録が進まないのは、もちろん単に煩雑だからという場合もあるが、顧客にストレスを与えることを嫌う、顧客最優先の矜恃を持った施設も含まれていることも知っておいて欲しい。今後控えている地域共通クーポンやGo To イートキャンペーンなどでも複雑なスキームが検討されていると聞く。利用者の不公平を解消するための心配りがかえって混乱と利用者離れを招く事の無いように願う。



国際通り

(3)Go To トラベルキャンペーンをより効果的なものにするには


キャンペーンの実施にもかかわらず、9月以降の予約状況の冷え込みに対して、さすがに危惧する声が大きくなってきた。私の考える「修正策」を列挙したい。



・自治体対応の統一

自治体によっては、キャンペーンに上乗せ補助をしていたり、逆に来て欲しくないアピールを続けているケースもある。例えば「我々の町では医療体制が脆弱で高齢者が多いので来訪を控えて欲しい」と発信するのはまだ良いとして、これとキャンペーンの是非は別問題だし、自治体レベルでキャンペーンそのものへのネガティブキャンペーンを繰り広げるのはおかしい。移動制限が発出されている状況ならともかく、個々の良識と判断に委ねられている現状で、各自治体の発する情報を基に旅行の行き先を判断するのは利用者であり、キャンペーンの中止や変更でバイアスをかけるものではない。逆に自治体が「陽性者が発生した場合営業停止を勧告する」とか「観光従事者にPCR検査を実施する」など事業者、利用者双方の不安を煽る見当外れの発言をしているケースがあることも混乱を助長していることを肝に命じて欲しい。



・宿泊施設の担当分け

「無症状の陽性者はホテルが積極的受け入れるべき」と言われたり、「陽性者が1人でも泊まったら営業するべきではない」と脅されたりするのが今の宿泊施設の実態だ。ホテルを利用するのは観光客だけではない。帰宅を躊躇する医療従事者、県外移動することで物流やインフラ維持、経済活動を続ける技術者やビジネスマンが日々リスクを抱えながら移動している。これらをひとつの宿泊者として捉えることに無理が出ているのであり、陽性者受け入れ施設や医療従事者や帰宅困難者については自治体がホテルを指定することも必要だろう。その場合、従業員の安全対策を一段階引き上げることも忘れてはならない。



・旅館業法の改正

今回のGo To トラベルキャンペーンによる宿泊施設での検温義務付けにより、一般にも「宿泊施設は旅館業法で発熱者の宿泊拒否ができない」ことが知れ渡ることとなった。70年以上前の世の中では、いわゆる行き倒れを防止するため、外見による差別を防ぐために(明らかに伝染病と認められるとき等以外は)宿泊拒否をしてはならないという条項が必要だったとは推察されるが、現在の社会では全く無用なルールだ。しかも、昔の伝染病とは、天然痘やハンセン病など外見的症状のあるものを指すのであって、インフルエンザやノロウィルスなどの感染症は想定していない。発熱即宿泊拒否を求めるものではないが、他の宿泊者や従業員の不安とリスクの軽減のため、宿泊施設側に相応の権利を与えることこそが旅行そのものの安心につながるはずだ。



・利用者の利便性向上

コールセンターに日々集まる質問や苦情から、利用者が使いづらいポイントもはっきりしてきた頃だろう。まず、利用者に対して登録宿泊施設であることの明示は最優先で改善するべきだ。各宿泊施設のウェブサイトに、統一マークや屋号と企業名の併記を義務付けるなど、今からでもできることはあるはずだ。また、旅行会社や予約サイトで利用者IDを付与し、2回目以降のキャンペーン利用では本人確認や居住地確認、決済や還付口座の登録を簡略化するなど、今後の旅行需要の創出につながる手法はたくさんある。キャンペーン中のアップデートと、キャンペーン後のレガシー構築は今なら十分可能なはずだ。



・利用者の協力を求める

逆に、これだけの税金を投入するのだから、利用者にも何らかの協力を求めることも検討するべきだ。例えば、接触確認アプリ「COCOA」への登録義務付け(スマホを持っていないというなら貸し出してでも利用を促すべきだ)、出発前・帰宅後の健康チェック表提出なども不安解消や万一の場合の対応の迅速化には有効なはずだ。また、この機会に偽名や架空の住所でも旅行会社やサイトで予約が可能な仕組みを改善することも必要だろう。



Go To トラベルキャンペーンが軌道に乗るまではまだ時間がかかるかもしれないが、修正されることでより有意義なキャンペーンになるはずだ。キャンペーンへの正しい理解による利用拡大、円滑な運用による事業者の負担軽減、キャンペーンにより露呈した業界課題の解消により、業界救済がスピーディーに成されることを切に願う。手遅れになり巨額の税金を「ドブに捨てる」結果になってしまうことだけは避けねばならない。

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