首都圏の高速道路料金について、国交省が新案を発表しました。大きく変革される料金制度によって、首都圏の高速道路における利便性の向上、そして渋滞緩和に大きな効果が得られそうです。
割高で選びづらかった圏央道
2015年9月11日(金)、国交省は「首都圏の新たな高速道路料金に関する具体方針(案)」を発表し、それを受けて各マスコミは、「首都高料金300円~1300円…長距離値上げ」(読売新聞)などと報じました。
国交省案のポイントは、「来年4月から、首都圏(圏央道の内側)の高速道路料金単価は、従来の大都市近郊区間の料金(36.6円/km)で原則統一し、発着地が同一ならどのルートを通っても料金も同一とする」というものです。
これによって値下がりするのは圏央道と横浜横須賀道路および首都高の短距離利用で、逆に値上がりするのは第三京浜、京葉道路、千葉東金道路、および首都高の長距離利用です。
首都圏のすべての区間が同一料金となり、ルート選択も自由になれば、ドライバーは料金にとらわれずに空いたルートを積極的に選択できるようになり、現在より局所的な混雑が緩和されることになります。
いままでは、混雑を避けようとして首都高から外環道に迂回すれば、その分だけ料金がかさみましたし、圏央道を使って迂回すると、圏央道の料金単価の高さのため都心部を首都高で突っ切ったほうが安上がりという不合理が生じていましたが、そうしたことがなくなるので、ルート選択の幅が断然広がるわけです。
この料金体系こそが理想形であり、文句のつけようがありません。
もちろん異論もあるでしょう。その第一は、値上げされる路線についてです。特に第三京浜は、この料金単価だと現在の2倍以上になってしまいます。
そのため、激変緩和措置として値上げ幅を抑え、3路線(第三京浜、京葉道路、千葉東金道路)とも当面24.6円/kmとされています。それでも第三京浜は50%以上の値上げですが。
こうあるべきだった首都高の料金
焦点の首都高に関しては、これまで510円~930円だった距離別料金を、320円~1300円に変更。詳細は不明ながら、12kmまでは値下げ、30km超?からは値上げになりそうです。
値上げになる長距離利用者からは不満が出るでしょうが、私(清水草一)の考えでは、もともと首都高の距離別料金はこうであるべきでした。
現在の距離別料金は、渋滞緩和効果がまるでない、ほとんど無意味な設定でした。下限が510円では、空いていれば短距離でも使おうという利用者は滅多にいませんし、逆に長距離は上限930円と極めて安いため、混んでいる区間だけ一般道に降りると非常に高くつき、一旦乗ったらテコでも降りないのが当たり前でした。
また、3料金圏制(東京圏700円・神奈川圏600円・埼玉圏400円)が廃止されたことで、埼玉~神奈川間は1700円から930円へと約半額に大幅値下げされてしまい、圏央道へ迂回するより都心部を突っ切った方が安いという不合理も助長しました。
しかし、その料金の幅が320円から1300円と広がれば、こういった不合理は緩和されます。
もともと現在の上限930円(導入当時は900円)という料金は、道路公団民営化の立役者だった猪瀬直樹氏(2012年1月の距離別料金導入当時は東京都副知事)が、「民営化したのに料金値上げになるのは許されない」として、400円~1200円案に反対した結果でした。
しかし首都高は日本で最も地価が高く混雑の激しい地域を走っており、長距離料金が安すぎるのは逆に問題。今回の案のほうがはるかに理に適っています。
新料金で懸念される問題、反発
それでも前回の距離別料金導入時には、全日本トラック協会が強烈な反対運動を展開しました。理由は「トラックは長距離利用が多いため、短距離を値下げしても実質的な値上げになり、多くのトラックが首都高の利用をやめて一般道に回り、沿道環境も悪化する」というものでした。
今回の案では現状より長距離が値上げされるわけですから、当然大反対かと思いきや、いまのところ静かです。もちろん今後、協会がどう動くかわかりませんが、実はこの案では、大型車(車両総重量8~25t)は有利なのです。
新料金案の導入に際して、首都高の料金車種区分を現在の2車種(普通車、大型車)から、NEXCOと同様の5車種(軽自動車等、普通車、中型車、大型車、特大車)に変更しなければなりません。
首都高では現在、大型車と特大車の料金は普通車の2倍ですが、5車種区分へ変更されると、大型車は1.65倍に下がります。
おかげで大型車は、短距離なら最大約50%値下げになり、長距離でも値上げ幅は最大で約15%(普通車は最大約40%)にとどまります。大型車の短距離利用は少ないので、実質的にはほぼ据え置きというところでしょうか。
さて問題は、現金利用の場合です。現在、普通車は一律930円ですが、これが1300円になってしまうはずです。
国交省は2015年8月、「現金車は料金収受コストが高い」というデータを出して値上げを示唆しましたが、一律40%の値上げは強烈です。
実は今回の国交省案には、現金利用についての記述がありません。この部分が今後、ひとつの焦点にはなるでしょう。