静岡大学工学部・菊池将一 准教授、東京電機大学・井尻 政孝 助教(研究当時 /現所属:東京都立大学システムデザイン学部 助教)、ヤマハ発動機・材料技術部からなる共同研究グループは、加熱することなくチタン合金表面に硬質な窒化層を短時間で形成させることに成功した。
軽くて強くて錆びないチタン合金は構造材料として実用されているが、チタン合金の適用範囲拡大には摩擦摩耗特性に乏しい点を克服することが不可欠だ。そのため、窒素拡散を利用した表面硬化法が広く用いられているが、チタン合金を窒素雰囲気で長時間加熱する必要があった。
研究では、常温・大気環境で窒素含有微粒子を高速投射するプロセスにより、チタン合金表面に硬い窒化層が形成されることを明らかにした。処理時間はわずか30秒ほどで、従来手法と比較して処理時間が大幅に短縮された。さらに、従来手法の課題であった加熱によるチタン合金組織の粗大化を防ぐこともできた。
本研究で得られた研究成果は、今後、優れた摩擦摩耗特性と強度特性を併せ持つ多機能チタン合金の開発につながると考えられ、航空機、自動車、生体医療分野などへの応用展開が期待される。
なお、本研究成果は、2021年5月3日に、Wiley社の発行する国際雑誌「Advanced Materials」に掲載された。
研究のポイント
・窒素を含む微粒子を高速で衝突させることにより、常温・大気環境でチタン合金の表面に窒化層を形成させた(図1)
・衝突時に窒素を含む微粒子がチタン合金表面に付着する現象を利用した
・従来の窒化処理と比較して、窒化層の形成速度が高いことを見出した(図2)
・チタン合金の表面組織が微細化されることを見出した(図3)
研究概要
本研究では、加熱することなくチタン合金表面に硬質な窒化層を短時間で形成させることに成功した。具体的には、常温・大気環境で窒素含有微粒子を高速投射するプロセスにより、チタン合金表面に硬い窒化層が形成されることを明らかにした。処理時間はわずか30秒ほどで、従来処理と比較して処理時間が大幅に短縮された。さらに、従来手法の課題であった加熱によるチタン合金組織の粗大化を防ぐこともできた。
研究背景
チタン合金は軽くて強くて錆びない性質を有しているため、構造材料として実用されている。チタン合金のさらなる適用範囲拡大には、摩擦摩耗特性に乏しいという欠点の克服が不可欠であり、現在は窒素拡散を利用してチタン表面を硬くしたり摩耗に強い膜をコーティングすることが主流だ。しかし、いずれの手法もチタン合金を長時間加熱する必要があり、チタン組織の粗大化を引き起こし強度が低下してしまう。そのため、加熱を必要としない短時間表面硬化プロセスの開発は、チタン合金の多機能化のブレークスルーとなる。
研究の成果
常温・大気環境で窒素含有微粒子を高速投射するプロセスにより、窒素含有微粒子の一部がチタン合金の表面に付着し、短時間でチタン合金表面に硬い窒化層が形成されることを明らかにした。さらに、窒素含有微粒子の衝突時にチタン合金の表面組織が改質されることも明らかにした。従来手法では加熱によってチタン合金組織が粗大化しましたが、本研究ではチタン合金の表面組織を微細化させることにも成功した。
今後の展望と波及効果
本研究で得られた研究成果は、優れた摩擦摩耗特性と強度特性を併せ持つ多機能チタン合金開発につながると考えられ、航空機、自動車、生体医療分野などへの応用展開が期待される。
窒化処理:窒素雰囲気で金属を加熱することにより、金属表面に窒素を含む層(窒化層)を形成させる処理。窒化処理により、金属表面は硬化する。
微粒子衝突処理:圧縮気体等により硬質微粒子を高速で投射する手法。微粒子ピーニングとも呼ばれる。