すでにバンク内ターボのTFSIに代わられてしまったが、かつてアウディはスーパーチャージャー過給によるユニークなV6エンジンを有していた。その最終世代について紹介しよう。
V6エンジンはVバンク角を60°とし、クランクピンを60°オフセットさせるのが常套手段だが、不釣り合い偶力の発生を覚悟し、90°のVバンク角とする手法も知られる。90°のメリットは、ひとえにエンジン全長の低減と車載時の全高の低減にあり、アウディ主導のV6エンジンはこれを見事に達成している。
VWグループのアウディにおける90°V6では伝統的な選択だが、実はこの選択にはもうひとつの事情がある。Vバンク角を90°にすると、同じく90°のVバンク角であるV8エンジン(と後にV10エンジン)と生産設備が共用できるのだ。無論、アウディはV6に先駆けて1988年からV8エンジンを生産している。なお、アウディの前身のホルヒは1933年にドイツ初のV8エンジン車を量産したメーカーである。ちなみにアウディの社名の由来は創業者の名であるホルヒの動詞形「ホルヘン=傾聴する」のラテン語訳に由来している。
90度V6の始祖は2004年の3.2ℓで、このエンジンはFSIの呼称が与えられているとおり世界初の直噴仕様V6エンジンであった。2006年には可変バルブリフト機構:AVSを備えた仕様が登場し(これもアウディ初だった)、さらに2008年に本稿で取り上げるスーパーチャージド3ℓ:TFSI仕様が現れ『S4』に載せられている。
さらに2014年には第4世代へと進化。スーパーチャージャー過給ではあるがさらなるレスポンスと環境性能の向上が図られている。
エンジンブロックは第4世代で「ライナーあり」に移行した。1mm壁厚の鋳鉄ライナーをクローズドデッキのアルミブロックに圧入する。クランクケースはハーフスカート構造で、ラダー構造の「下半分」ブロックで締結する方式。オイルパン内にはポリアミド製のハニカムインサートと称する部材を収め、急旋回などの高ストレス下でも確実にオイルサンプが行えるようにしている。
ユニークなのがオイル冷却方法。エンジン後端にシーリングフランジと称する部材を備え、そこに水冷式のオイルクーラとフィルタを収める。エンジン本体からは突き出す格好になってしまうが車載状態ではトランスミッションの上になるため、パワートレイン全体としてはコンパクトな格好になる。この手法はVVT@シリンダーヘッドでも散見される。
回転運動系はレスポンス向上のため、軽量化が図られた。クランクシャフトはウェブ容量を減らしクランクピンにはボーリングによって軽め穴が穿たれた。径はクランクジャーナルが65mm/コンロッドピンが56mm。ピストンは形状の工夫によって軽量にするとともに、当然ながら直噴の燃焼室としての形状変更に重きが置かれ、結果として第3世代の圧縮比10.3に対して10.8へと高めている。
燃料噴射システムは第4世代でDI+PFIに進化。ただ単に吸気ポートへインジェクタを加えただけではなく、直噴インジェクタのノズル位置をよりシリンダ壁面に近づけている。燃焼室中央にある点火プラグへの燃料噴霧、混合気醸成の良化などを狙った。最高噴射圧も調整、200bar(20MPa)まで高められた。
ポートインジェクタの追加によって、低回転軽負荷域での噴射はもちろんのこと、低回転高負荷、高回転高負荷域においてもMPI:ポートインジェクタを用いる制御とした——むしろ全域でMPIを使用するところに、負荷によってFSI:直噴インジェクタを用いていくといったほうが正確である。MPIの狙いは良好な混合気の獲得。直噴は高圧縮比下の耐ノッキング性能や高回転時の噴射サイクルの正確性には優れるものの、いかんせん新気と混ざる時間が短く、燃え残り=PMの発生を招いてしまう。欧州で強く求められる環境性能を実現するための手段として、MPIに再び注目が集まった。
いわば第4世代のEA837型にとってハイライトとも言えるのが、ルーツブロワの可変制御である。第3世代ではルーツ式スーパーチャージャー(イートン社のTVSである)を常時運転、負荷変動に対してはスロットルフラップで制御していたのに対して、第4世代では電磁クラッチを供えることでOn-Off制御を可能とした。低回転軽負荷域では状況に応じてクラッチを断続することで高効率を狙った。
■ EA837:3.0 TFSI
気筒配列 V型6気筒
排気量 2995cc
内径×行程 89.0×84.5mm
圧縮比 10.8
最高出力 228kW/2500-6500rpm
最大トルク 440Nm/2900-4750rpm
給気方式 スーパーチャージャー
カム配置 DOHC
吸気弁/排気弁数 2/2
バルブ駆動方式 ロッカーアーム
燃料噴射方式 DI+PFI
VVT/VVL In-Ex/◯