アウトドアで力を発揮する「マルチツール」。スイス・アーミーナイフの「ビクトリノックス」や「ウェンガー」が有名だが、吾がチームは、アメリカ製「レザーマン」を愛用する。今回は、ダッチオーブンで鶏の丸焼きにもチャレンジだ。
TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
吾輩はスズキ・ジムニーである。1986年の生まれで、型式はM-JA71Cだ。金属のルーフもエアコンも当然ない。「4WD→2WD→4WD」と手動で切り替えるパートタイムの四輪駆動車である。錆も進みあちこちが凹んでいるので、ゆっくりと余生を送ろうとしていたが、週に1回、アウトドア・フィールドにでかけることとなる。
高校受験の面接でよく聞かれる質問のひとつ。「あなたが無人島に行くとしたら、何を持って行きますか?」という定例文がある。「愛読書を持って行きます」とかが名回答だ。「スマホです」なんて回答したら、多分受験に失敗する。そんななかで「マルチツールです」と答えたらどうなのだろう。
「それはどういうものですか?」とでも聞かれたら、時代の移り変わる現在なら、かなり好印象を与えるかもしれない。余計な前置きはこのぐらいにして、今回はマルチツールを使ってみる。
マルチツールの代表格はスイス・アーミーナイフだ。「ビクトリノックス」や「ウェンガー」だが、ウェンガーは「ビクトリノックス」に買収されて、今やひとつの会社になった。他方で、アメリカ製の「レザーマン」という製品があり、こちらは少し大きめで無骨だ。プライヤーを装備、より実戦的で人気がある。吾がチームは、今はこちらを愛用している。
さて、「ビクトリノックス」や「レザーマン」でできないことは穴を掘ることだ。そこでスコップを主とした目的のマルチツールをテストすることにする。
今でこそやらないが、昔はテントを張ったら、テント中に浸水させないためにテントの周りに溝を掘った。そのため、小型の折りたたみのスコップは必要品であった。オリーブドラブの米軍放出品の折りたたみのスコップはちょっとした憧れ品。おっと今はキャンプ場で穴を掘ってはいけません。最新のテントなら、浸水はまずあり得ないので必要なし。
ではどうして手に入れたかと言うと、キャンプシーンに単純作業を入れ込んでやると楽しさが倍増するからだ。たとえ購入した薪であっても、自ら割って、より燃えやすくするのは楽しい。ライターやマッチを使わず、ファイヤースターターで火を起す。火口を用意、フェザーステックに火を移して火を大きくしていく。普段の生活でめんどくさいことを楽しむのも、アウトドアの醍醐味である。燃えやすくしたり、手間を増やしたり変ではあるが楽しいのだ。
焚き火だけに限らず、わざと整地されていないキャンプ場を選び(たいがいはお安い)、テントスペースを平坦にしたり、直火が許可されているキャンプ地なら、かまどを作ったりする。石を組みながら下も掘る。そんな楽しみ方を増やすのもよい。普段やらないことをする、これが良い。
結果、やはりマルチツールは、専用のツールに比べると、使い難く、効率も悪い。でも、このふたつのマルチツールを使えば、シェルターを作ることも充分可能だ。
たとえシェルターを作らなくても「やろうと思えばできる」そんなツールを揃えておくのもアウトドアの楽しみ方だ。
実はこのスコップを鍋として、「すき焼き」をやってみようと考えていたのだが、スパナの機能も足されていて穴が空いている。これでは「割り下」が漏れてしまう。ボルト・ナット・ワッシャーで塞ぐか、それともネギでも詰めてみるか。
—吾輩はスズキ・ジムニーである。型式はM-JA71C。名前はまだない—