低回転域から過給効果を得られればエンジン排気量を小さくできる。しかし、ターボチャージャーを小型化すると中高速域性能とのバランスが難しくなる。そこで注目されるのが電動スーパーチャージャーというデバイスである。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
*本記事は2015年3月に執筆したものです
仏・ヴァレオ(Valeo)の電動スーパーチャージャー(以下、E-S/Cと略)が世の中にお披露目されて以降、世界中のあらゆる自動車メーカーおよびエンジニアリング会社、市場調査会社がこれに注目している。近く採用第一号モデルが市販される予定であり、ガソリンかディーゼルかを問わず、この新しい過給機を使いこなそうという試みが広がっていくことに筆者も注目している。今回、ヴァレオ本社のパワートレインシステムR&Dおよびマーケティング・ディレクター兼ハイブリッド&EV戦略担当ディレクターであるミシェル・フォリシエ氏にインタビューする機会を得たので、現時点でのE-S/Cを俯瞰する質問をいくつか投げてみた。
まず、効果について訊いた。フォリシエ氏は「ターボチャージャー(以下=T/C)に比べて約4分の1のタイムラグになりエンジン回転は25%のダウンスピーディングが可能だ。これまでの試験では燃費が8%程度向上した」「ゼロ発進から0.5秒後では、T/Cはまだ過給圧がわずかにしか上がらないが、E-S/Cは0.5秒後にはT/Cの2秒後に等しい過給圧を発生する。BMEP(正味平均有効圧)で20を超える」と答えた。
E-S/Cが作動する時間は1〜4秒と聞いた。これは電力消費とコンプレッサー付近の温度で制約を受けるようだ。もっとも、発進加速でも4秒間の作動は必要ないだろう。「過渡域で使っても、加速のためシフトダウンする必要がないから加速はスムーズになる」という点も、すでに実験車で確認しているそうだ。どのくらいの範囲でコンプレッサーの回転数を変えられるかについては「上限が7万rpm程度」とだけ答えてくれた。
二番めは機械的な仕様についてだ。まだ市販されていないため細部の仕様については詳細を語ってもらえなかったが、コンプレッサーは直径70mm程度で現在はスチール製、ハウジングはアルミダイキャストだという。ただし「将来的には素材置換を考えている。ハウジングは樹脂化できるだろう。コンプレッサーもほかの素材で置き換えられる」と意欲を語ってくれた。ちなみに、韓国の起亜自動車が2014年のジュネーブ・ショーに展示した試作エンジンを見るかぎり、E-S/Cの外形は径も長手方向も170mmの円筒状である。レイアウトは「軸水平でも垂直でも構わない」と言う。
三番めは、任意の回転数を好きなときに得られるという電動過給機ならではのメリットを活かした吸排気の動的効果だ。ガソリンエンジンのノンスロットリング化が可能だしミラーサイクル効果も得られるのではないか、と考えた。「まったくそのとおり。動的効果のために使用することもできる。通常の吸気バルブ遅閉じミラーサイクルと同じこともできる。それとEGRにも使える」とフォリシエ氏は語った。もっとも、E-S/Cの作動には必ず電力を使うから、どこまで積極的に使うかは回生で得られる電力、つまりバッテリー容量にもよるはずだ。そこで四番めの質問。ハイブリッド・システムとの相性だ。電力を得るためのブレーキ回生は、やったほうがいいだろう。オルタネーターでの発電に任せたのでは発電負荷が増えてしまう。マイクロ~マイルド・ハイブリッドでの仕様が最適のはずだ。
「ブレーキ回生で電力を貯めてE-S/Cを作動させる方法が主流になるだろう。たとえばハイブリッド仕様でEV走行しているときにエンジン始動する場合には、どんな速度域でもE-S/Cを使ってスムーズな始動ができるし、コースティングストップもアイドルストップ後の再始動もスムーズに行なえる」
それと、五番めは企業戦略的な質問だが、現時点で何社のOEM(自動車メーカー)と具体的なプログラムを進めていて、量産想定数はどれくらいなのか、ということだ。
「現在、プログラム数では15ほどが進められている。それと、量産についてはあくまで個人的な見解だが、2020年時点では年産300万基程度まで想定している」
以上がフォリシエ氏とのインタビューで得たE-S/Cの現状である。まずはDEで実用化され、やや遅れてガソリンエンジン車に搭載される。最初の顧客はドイツだが、起亜自動車の試作エンジンも陽の目を見ることだろう。さらには、エンジン回転に左右されない過給システムも開発はほかのサプライヤーやエンジニアリング会社でも進められている。空気を「吸う」ことに自動車が貪欲になってきた証拠である。