道なき道を行くクロスカントリーラリー競技の最高峰ダカールラリーで計12回もの総合優勝を勝ち取ってきた三菱自動車は、勝ち続けるための選択としてディーゼルターボ・エンジンを作り上げ、2009年1月のダカールラリーに投入した。日本の自動車メーカーが初めて開発した純レーシング・ディーゼル、それは量産ガソリン・エンジン生まれの異端児だった。
TEXT:今井清和(IMAI Kiyokazu) PHOTO:MITSUBISHI MOTORS/住吉道仁
日本初の純レーシング・ディーゼルである三菱自動車の6G7-DID。とは言っても、外観はガソリン・エンジンである三菱6G7系そのまま。カム間隔までそのままであることがわかる。スパークプラグが配されていたシリンダーヘッド中央には新たにディーゼル用のインジェクターが備わり、ヘッドカバー上のコモンレールからデリバリーパイプが伸びているが、注意して見ないと、これがディーゼルとは普通は思わないだろう。オイルシステムはドライサンプで、低重心化が図られている。
6G7系のシリンダー挟み角はV6としては標準的な60°で等間隔点火。このレーシング・ディーゼルでは両バンクの脇に2ステージターボユニットを備えるため、エンジンコンポーネントとしての横幅がかなりある。重量もインテークマニホールドを除いた状態で230kg前後と、NAガソリン時代より60kg以上の増加となった。
容量と応答性の両立を狙い、市販車でも採用例が増えている2ステージターボシステムを採用。低回転域は高圧(小型)、高回転域は低圧(大型)のターボが主に担当するというのが基本的な考え方で、三菱レーシング・ディーゼルの場合、3000rpmを超えたあたりで両ターボがフル稼働に近い状態となる。
エアクリーナーを通過した新気はリストリクターで絞り込まれた後に低圧ターボのコンプレッサーに入り、低圧ターボ用インタークーラーを通過。その後、高回転域ではコンプレッサーバイパスバルブが開いて空気の多くは高圧ターボ用インタークーラーに直接入って再度冷却された後にエンジンに導かれるが、低・中回転域では高圧ターボのコンプレッサーでさらに加圧される。排気も同様の考え方。まず高圧ターボに向かうが、中・高回転域では低圧ターボをフルに使うためにエキゾーストコントロールバルブが開き、逆にエンジン回転が低くなるほど高圧ターボの作動率を高める。
これらの制御は、燃料噴射制御とともに競技用ECUが統括。この三菱のレーシング・ディーゼル開発における実走テストの大半は増岡浩選手の手によって行なわれたが、「2ステージターボを生かすも殺すも制御次第」と語っていた。