多摩川トライアングルと呼ばれるデルタ地帯にパックラフトに乗って向かう。目的はトレイルカメラで「野生動物」を撮影することだ。狙いは「イタチ」。果たして撮影に成功するだろうか?
TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
吾輩はスズキ・ジムニーである。1986年の生まれで、型式はM-JA71Cだ。金属のルーフもエアコンもない、切替え式のパートタイムの四輪駆動車である。錆も進み、あちこちが凹んでいるので、ゆっくりと余生を送ろうとしていたが、週に1回、アウトドアフィールドに出ることとなる。
ここが「多摩川デルタ」、もしくは「多摩川トライアングル」と呼ばれている場所である。歴史的には右岸(川の流れる方向を向いて、右が右岸、左を左岸と言う)に名城として名高い滝山城、少し下流には上杉軍が小田原攻めの際に渡った「平の渡し」もある。多摩川とその支流である秋川との合流で出来たデルタ地帯で、多くの種の野生動物が棲息していたと言われている。
その代表的な生物が「ニホンイタチ」だ。50年前であれば、「イタチ」はそれほど珍しい動物ではなく吾輩もかなり目撃している。数が減ったのは、食性となる小動物の減少、そして交通事故ではないかと思われる。
じつは3年ほど前に「多摩川デルタ」から2kmほど上流の秋川で、「イタチ」を目撃したことがある。目蔭(まかげ)という後ろ足で2本立ちをして周囲を見回す行動をしていた。
ところが、2019年の台風19号により、秋川の地形は大きく変わってしまい、その後「イタチ」を目撃することはなくなった。
だが、もしかすると、この「多摩川デルタ」には生息しているのではないかと期待して、トレイルカメラを設置してみることにした。
設置場所はまず獣道を探す。そして足跡、水場や食性も考える必要がある。周囲などをゆっくりと見て周る必要があり、徒歩で行くのがベストではある。
「多摩川デルタ」には徒歩のみでも、数カ所アクセスする場所はある。ただ、昼間と言えども、なるべく野生動物に影響は与えたくはない。「多摩川デルタ」の中に入り込まず、外周を静かに見て周ることにする。それには多摩川か秋川を渡るアプローチが必要だ。「パックラフト」の出番である。
秋川流域を「パックラフト」で下り、多摩川流域に入る。そこから陸路で「多摩川デルタ」の東側の外周にたどり着くのがベストだろう。
また、水路を選ぶことで、「イタチ」の食性、「小魚、ザリガニ、水生昆虫」などを探しながらのアプローチも可能だ。
実際のところ、水中を探してみてもこれらの生物はなかなか見つからない。台風の影響でこの地域はすべて水に浸かり、環境ごと流されたのであろう。
川魚も数匹の鯉以外は、数の少ない小魚の群れを確認出来たに過ぎなかった。「イタチ」に限らず、「猪」、「ウサギ」、その他の野生動物は今も生存して、ここで繁殖は可能なのだろうか。不安ではあるが、とにもかくにもトレイルカメラを設置してみる。
トレイルカメラの設置期間は一カ所に1週間とする。今回は多摩川側に設置。「多摩川デルタ」の中央にあった水場はすでに乾上がってしまっている。野生動物達が生存しているのなら、水を求めて必ず川に出て来るはずだ。
多摩川側は「多摩川デルタ」の茂みから多摩川までの距離がかなり長い。植物のない河原が続く。これでは野生動物は身をさらす危険性が高い。これに対して秋川側は距離が短く、すぐに水場にアプローチできる。吾輩は設置場所を間違えてしまった可能性も大いにある。次回は秋川側にトレイルカメラを設置してみることにする。
さて、「イタチ」に限らず、野生動物の撮影はできるのであろうか。彼らが生息域を増やし、再生してくれる事を願ってはいるのである。
ー吾輩はスズキ・ジムニーである。型式はM-JA71C。名前はまだないー