990cc最後の年に、あえて送り込んだ完全新設計エンジン。New Generationに投入された最新テクノロジーとは?
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)
2006年モデルで投入された、ニッキー・ヘイデン選手搭乗車の「New Generation」。車体をも含めたNew Generationの開発テーマとして掲げられたのは、「ひたすら旋回性を向上させること(本田技術研究所朝霞研究所モータースポーツデベロップメント主任研究員・吉井恭一氏:取材当時)」だという。
「タイヤ性能の進歩もあって、ここ数年のMotoGPマシンはコーナリング速度が非常に高まっています。開発側としては、マシン性能の向上とともに、『ライダーが安心して乗れる』という意味での信頼性を高めたいと考えました。そこで注目したのが、スイングアーム長です。もてぎで試験的に非常識なほど長いスイングアームを装着したマシンを走らせてみたところ、最終コーナーからの立ち上がりが非常にスムーズで、車速も伸びているように見えました。テストライダーからも、ストレートから1コーナーにかけて乗りやすかったとのコメント。ならば、ロングスイングアーム化のために邪魔になるエンジンを小さくしなければ、と(吉井氏)」
広報資料によると、New GenerationのエンジンはOriginal(2006年ダニエル・ペドロサ選手搭乗車)に比べて前後長の短縮、エンジン単体のマス集中化と、単体重量で7%もの軽量化に成功している。その上で、最高出力は3%以上も向上しているのだ。もともと極限まで切り詰めた設計のレーシングエンジンを、同じレイアウトでさらにコンパクト化する。ある意味“非常識”な話だ。
「RC211Vの基本的な設計は、2000~2001年に行なわれたわけです。もちろん、今日に至るまでたゆまず改良を重ねて来たとはいえ、“基本”が当時の状況ベースであることは事実です。その後5年間の月日を経て、材料や加工など、さまざまな技術が進歩しています。それを前提に、現時点でゼロから設計したら、RC211Vはどういうマシンになるのか?が、New Generationのコンセプトです。実は『5気筒にこだわる必要はない』との声までありましたが、我々のオリジナリティであり、いまだにベストと確信して開発を進めました。たとえば、エンジン前後長の短縮は、おもにメインシャフト-カウンターシャフト間の距離短縮で実現していますが、これは2001年当時の技術状況では実現不可能だったのではないかと思います。(吉井氏)」
制御系の見直しも行なわれた。燃料噴射機構は、前3気筒のバルブをスロットルワイヤー駆動、後2気筒をモーター駆動によるThrottle By Wire(TBW)化することで、ライダーに違和感を与えることなく、エンジンブレーキ制御やトラクションコントロール機能をより緻密に制御している。エンジンは、車体のために。車体は、エンジンのために。そして、すべてはライダーのために。極限状況で戦うMotoGPマシンだからこそ、求められたものは、モーターサイクルの“原点”だったのだ。