
カワサキ・Ninja ZXシリーズのフラッグシップモデル「Ninja ZX-10R」と「Ninja ZX-10RR」が2021年モデルとしてマイナーチェンジ。カウル形状の変更と小型ヘッドライトの採用、オイルクーラーの追加装備、サスペンションセッティングの最適化など、高いサーキット走行性能をさらに向上。ここではカワサキの開発陣(開発リーダー、車体設計、エンジン設計、開発ライダー)に、新しいNinja ZX-10R/RRの魅力やポイントを伺った。
REPORT●北秀昭(KITA Hideaki)
取材協力●川崎重工株式会社
カワサキ Ninja ZX-10R KRT EDITION/Ninja ZX-10R……2,299,000円(消費税10%を含む) 2021年5月28日(金)発売

カワサキNinja ZX-10RR……3,289,000円(消費税10%を含む) 2021年6月25日(金)発売

速いバイク=ビギナーにも扱いやすく、乗りやすいバイク。Ninja ZX-10R/RRはこれを体現し、実現した1台
【カワサキNinja ZX-10R/RRの開発陣】
・開発リーダ ー
川崎重工株式会社 MC&E カンパニ ー 技術本部 第二設計部 第一課 西山 隆史さん
・車体設計
川崎重工株式会社 MC&E カンパニ ー 技術本部 第二設計部 第三課 山本 智さん
・エンジン設計
川崎重工株式会社 MC&E カンパニ ー 技術本部 第一設計部 第一課 阪口 保彦さん
・開発ライダ ー
株式会社ケイテック 実験部 製品評価課 苅田 庄平さん

--- 新しくなったNinja ZX-10R/RRの開発テーマは?
カワサキ開発陣(以下・カ):ズバリ、空力性能のアップ。新型は前モデルに比べ、スクリーンの高さをアップして、風からのプロテクションを向上。この点に関しては、ツーリングユースでの快適性もアップさせ、ビギナーでも安心して楽しんで頂ける仕様としています。
--- カウルの形状変更により、フロントマスクのイメージも一新しましたね。
カ:カウルにややボリューム感を持たせることにより、サーキットユースはもちろん、ツーリング時の一般走行でも疲れが癒される形状にアレンジ。新型はこれに加え、シート形状も変更。前シリーズのNinja ZX-10R/RRのイメージを崩すことなく、最高速域付近の空力ポテンシャルを向上させているのもポイントです。
--- フラッグシップモデルであり、超高性能なNinja ZX-10R/RRは、筆者的には「サーキット経験者やレース経験者など、一部の選ばれたライダーだけのもの」というイメージがあります。大型ビギナーは、やはり選ぶべきでない?
カ:そんなことはありません。Ninja ZX-10R/RRは、サーキット走行やレースには縁のない、250ccや400ccからステップアップしたストリート志向の人。ジョナサン・レイ選手(下記参照)に影響されたレースファン。カワサキ車に興味のある人。ツーリング等で余裕の走りを楽しみたい人などにも、ぜひ乗っていただきたいと考えています。
--- サーキット走行未経験者、レース未経験者、また大型ビギナーには、速すぎて扱いにくいのでは?
カ:それは逆。カワサキの目指すところは、「速いバイクほど、乗りやすいバイク」であること。Ninja ZX-10R/RRは、イマドキのバイクならではの、それをキチンと体現しているバイクです。
市販車最高峰のロードレースであるスーパーバイク世界選手権において、6年連続タイトルを獲得したNinja ZX-10R/RRは、レースのイメージが強い。そういう点では、ビギナーの中にはNinja ZX-10R/RRというモデルは、異次元の「速すぎて乗りにくそう」「扱いづらそう」というイメージを抱く方もいらっしゃいます。
しかし昨今のレース車両を含め、イマドキのレーシングモデルというのは、乗りやすさをトコトン突き詰めているがゆえ、超ピーキーだった2ストスポーツモデルや、扱いづらかった超高回転型4ストレーシングとは明らかに異なり、実に扱いやすいのが特徴。それはNinja ZX-10R/RRにも当てはまることです。
特にストリートユースを想定したNinja ZX-10Rは、高速道路でのロングラン等の疲れを軽減するクルコン(クルーズコントロール)が標準装備。また、トラクションコントロールや出力特性をライディング条件に合わせて簡単に設定できる「S-KTRC・パワーモード連携モードセレクト機能」、加えてカワサキエンジンブレーキコントロール、KQSなど、大型ビギナーの走りをフォローする最新の電子制御システムも充実。
Ninja ZX-10R/RRには、スマートフォン接続機能を備える、多機能な「TFTインストゥルメントパネル」も導入。大型ビギナーでもとっつきやすく、扱いやすくて便利な1台に仕上がっています。


--- エンジン系の変更点は?
カ:新排ガス規制のユーロ5に適合した水冷4ストローク並列4気筒DOHC998ccエンジンは、スーパーバイク世界選手権参戦マシンからのフィードバックに基づき、空冷オイルクーラーを新たに装備。ハードに走る時には、エンジンの冷却効果を発揮してくれます。
--- Ninja ZX-10R/RRといえば、市販車最高峰のロードレース「スーパーバイク世界選手権」で、2015年~2020年の6年連続タイトルを獲得したマシン。ライダーのジョナサン・レイ選手も、開発に携わったのですか?
カ:開発ライダーとして乗ってもらいました。今回はジョナサン・レイ選手の意見も参考にして、前モデルの足周りを元に、セッティングを変更。前モデルよりもフロントの接地感を高め、高回転域でのコーナーの脱出速度をアップさせ、ポテンシャルを高めています。

--- 足周りやフレームの変更点は?
カ:ジョナサン・レイ選手いわく「スーパーバイク世界選手権最強のシャシーを、イジる必要はないのでは?」と。また、ドゥカティのスコット・レディング選手も「スーパーバイク史上最強のマシン。あえて変える必要はない」とコメントしてくれた。テストを繰り返し、あれこれ検討した結果、前モデルのパッケージを変更する必要なしと判断しました。
とはいえ、足周りは細部のセッティング変更により、前モデルよりもハンドリングがニュートラルになって一体感が向上。ダッシュ力も増すなど着実に進化。
なお、私(開発者)は2012年型のNinja ZX-10Rに乗っていますが、新型のサスペンションはまったくの別物。フロント荷重の違いなど、ビギナーでもその違いは明確に体感できるはず。新型はそれほど進化していますね。



--- ストリートユースを想定した新型のNinja ZX-10Rと、サーキットユースを突き詰めた新型のNinja ZX-10RRは、装備や仕様の違いにより、車両価格に約100万円もの差があります。その走りは体感的にどう違う?
カ:Ninja ZX-10RRは、Ninja ZX-10Rよりも高回転型にチューン。全域においてシャープでフラットながら、扱いやすい特性です。パンクル社製チタンコンロッドと製軽量ピストン、専用カムシャフトを組み込み、サーキット走行に特化したNinja ZX-10RRは、Ninja ZX-10Rに比べて最高回転数を400rpm向上して1万4700rpmとし、アドバンテージをアップ。Ninja ZX-10Rを超えたスポーティな乗り味は、一般ユーザーでも体感でき、楽しめるものに仕上がっています。
足周りは基本的にNinja ZX-10Rと同じですが、伸び側のセッティングを煮詰め、高速域で本領を発揮するサーキットに適したものとしています。
--- Ninja ZX-10RRには、ブレーキ性能向上に貢献するレース用ステンレスメッシュブレーキホースも採用。一般的にオイル通路系統のステンレスメッシュホース化は、バイクカスタムやチューニングの定番であり王道です。Ninja ZX-10RRのようにブレーキに採用した場合、そのメリットは?
カ:ゴムホースに比べ、ステンレスメッシュブレーキホースは、ブレーキを握った時のフィーリングがダイレクトに伝わりやすい。膨張感はゴムホースよりも明らかに上です。特にハードなブレーキングを多用するサーキット走行では、その違いを感じることができます。


・高回転域の性能を向上させるパンクル社製の軽量ピストンとチタニウム製コネクティングロッド
・高回転域で性能を引きだす、Ninja ZX-10RR専用の新設計カムシャフト
・サーキット走行を前提にセッティングした、ショーワ社製バランスフリーフロントフォークとBFRC lite リヤサスペンション
・フロントブレーキに採用した高レベルのブレーキ性能に貢献するレース用ステンレスメッシュブレーキホース
・機敏なハンドリングを実現するマルケジーニ社製7本スポークアルミ製鍛造ホイール
・ストリートとサーキットで優れたパフォーマンスを発揮するピレリ製ディアブロ・スーパーコルサSPタイヤ
・サーキットシーンでの使用を想定したシングルシート