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大型トラックは電気で走れるか? 大型トラックの「走行段階」だけCO2ゼロは、単なる本末転倒 エンジンをなくしてしまって、ホントにいいのですか?(その4)


エンジンなんてもう古い。時代はカーボンニュートラル。これからの自動車は電気だ——メディアだけでなく世の中の大勢はいまやこの方向だ。「電気は環境に優しい」と。しかし、現実問題として文明社会とICE(内燃エンジン)の関係は本当に切れるのか。断ち切っていいものなのか……。4回目はもっとも電動化が難しそうな大型トラックを取り上げる。




テキスト◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

ABボルボの子会社であるボルボ・トラックス・ノースアメリカが昨年12月にアメリカで披露した「クラス8」の純電動トラック「VNRエレクトリック」は、264kWhのLiB(リチウムイオン2次電池)を搭載し航続距離は最長240kmと発表された。当然、航続距離は車両タイプと積載量によりけりだが、クラス8はGVW(グロス・ヴィークル・ウエイト=車両総重量)15トン以上である。ちなみに日本の「大型トラック」はGVW11トン以上である。

カリフォルニア州で行なわれたボルボBEVトラックのパレード

電動モーターとLiB(リチウムイオンバッテリー)はトラクターヘッドに収容される。エンジンは搭載しない。純粋なBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)である。パワートレーン&キャビンの後ろに1軸ストレートの荷台もしくはGVW33トン/4×2と同41トン/6×2という連結トレーラーを選ぶことができる。連結41トンともなれば立派な長距離路線輸送トラックであり航続距離240kmは短かすぎるが、発表資料以外の資料も読むと、満充電で高速距離240kmはGVW15トンの1軸ストレート仕様だと思えてくる。41トン連結ではそんなに走れそうにない。

ABボルボは「70分以内に満充電の80%まで充電できる急速充電機能を備えており、単相または3相の交流電源から充電できる」と説明する。この点も乗用車のBEVと同じである。電動モーターは定格出力400kW(455hp)、最大トルク5500Nm。「2段変速機を備える」というが、遊星歯車式だろうか。




電動モーターのトルク特性だから発進はまったく問題ない。ハイウェイを100km/h付近で巡航するときの走行抵抗は、たとえ車軸が6本でも路面抵抗と空気抵抗はほぼ同等だろう。その前提なら前面投影面積100㎠当たりに換算すれば積載量当たりの空気抵抗はきわめて小さい。その意味では、そこそこ実用に耐えるだろう。

VNRエレクトリックの充電口は運転席へのステップの下にある

3相交流式充電プラグCCS2

この「VNRエレクトリック」を、ABボルボは2021年からアメリカ・バージニア州の工場で組み立てを行なうと発表していた。すでにアメリカとカナダではフリート(大口)ユーザー向けに販売開始されたほか、150kWの急速充電設備がカリフォルニア州内に何カ所か設置されている。満充電で高速距離240kmはGVW15トンの1軸ストレート仕様だろうか。




アメリカのトラックモードでの航続距離240kmは、もちろんモード電費がベースであり、このまま実際の電費とはならない。実質180kmと考えると、搭載したLiBは1日3回の急速充電で実働500日くらいが限界になると思われる。LiBが劣化し容量が減ってくると、航続距離はどんどん短かくなる。

テスラのsemi(PHOTOⒸTesla)

大型トラックの電動化では、テスラが2017年に同じくクラス8の電動トラック「Semi」を発表した。航続距離800kmという触れ込みだったが、当初の「2019年中の発売」という予定は2年間延期された。といっても2021年中には発売しなければ再度の延期になってしまう。モード電費で500マイル(約800km)は非常に魅力的だが、どれくらいの容量のLiBを搭載するのだろうか。2017年の時点では、航続距離300マイル(約480km)の仕様が予定価格15万ドル(約1635万円)、500マイル使用は18万ドル(約1962万円)と発表されていた。

つまり300マイルの航続距離延伸を3万ドルで買う。100マイル(約160km)=1万ドル(約109万円)である。どれくらいの電池寿命かはわからないが、一般LiBなどの化学電池は「せいぜい充放電1500回」であり、これは化学電池である以上、宿命的な寿命である。しかもテスラは「Semi」の搭載電池容量を公表していない。

BEVトラック用充電ステーション

ボルボ「VNRエレクトリック」は、テスラ「Semi」と同じクラス8のトラックで、264kWhのLiBを積む。どのような状態かは不明だが、航続距離は最大240km。タイヤの転がり抵抗はあまり落とせないし、キャブの空力抵抗でも劇的な差は得難い。一般論として、地を這う自動車は80km/hを超えると空気抵抗が路面抵抗を上回る。あとは回生ブレーキの利かせ方でいかに電力回生するかだが、ここでも飛び抜けた妙案があるわけではない。

仮にテスラ「Semi」とボルボ「VNRエレクトリック」を同じクラス8で電費性能も同じだと仮定すると、「Semi」の300マイル仕様は528kWh、500マイル仕様は880kWhのLiBを積んでいることになる。LiBを保護する収容構造や配線類も含めて1kWh当たり8.5kgだとすれば300マイル仕様の電池重量は4488kg、500マイル仕様は7480kgと試算される。

現在、LiBの重量エネルギー密度は662Wh/kgが理論的限界値だと言われている。ガソリンは1.2万Wh/kg以上。現状の車載LiBは、航続距離延伸のために「積み増し」しても、その自重分だけは航続距離が目減りしてしまうというアンビバレントな性格だ。




重量に対する出力密度の点で非常に優れていると言われたオートモーティブエナジーサプライ(AESC=日産とNECの合弁会社であり現在は中国資本)製のラミネート電池は、セル当たり電圧3.65V(ボルト)、容量56.3Ah(アンペアアワー)、重さ914g(グラム)だった。これを192セル使い容量40kWhとしたものが初期の日産「リーフ」用だった。現在は288セル62kWhに増えている。

288セル型は、単純に電池パック重量だけで見れば288×914g=263.23kgだが、これを丈夫な筐体に収め、配線を施せば、重量は300kgを軽く超える。LiBモジュールの重量は絶対に公表されない。だから想像するしかない。前述の試算に当たってはトラックへの搭載ということを考えて1kWh=8.5kgで計算した。実際にはもっと軽い可能性もあるし、逆に冷却装置などで重たくなっていることも考えられる。この数字を8kgにすれば300マイル仕様の電池重量は264kgも軽くなる。実際にはどの程度の重量なのか知りたいところだ。

ちなみに現在、BEVの技術は「冷却」がハイライトだ。電動モーターの冷却、インバーターの冷却、電池の冷却。ここがカギを握っている。だから、たとえば英国の老舗エンジニアリング会社であるリカルドは、電池パックとインバーターをすべて密閉しオイル冷却する方法まで考えている。




アメリカではダイムラー・トラックもBEV事業に参入した。昨年12月には電力会社と共同でBEVトラック用の充電インフラを整備する計画を発表した。まだBEVトラックの概要は明らかにされていないが、ダイムラーはその一方でFCEV(燃料電池電気自動車)トラックの開発も進めている。

トヨタの北米事業体であるToyota Motor North America(以下、TMNA)が開発中の燃料電池大型商用トラックの新型プロトタイプは新型「MIRAI」に搭載している第二世代FCシステムを採用することで、将来の量産化を見据え、パフォーマンスと柔軟性を大幅に向上させている。荷重量は約36トン、航続距離は300マイル(約480km)以上だ。

そう。トラックの場合、FCEVという選択肢がある。日本ではトヨタと日野が共同開発を進めているほか、中国は国家的に大型トラック・バスのFCEV化を進める方針を示している。EUも「乗用車はBEV、大型商用車はFCEV」と言っている。この背景にはLiB供給量という問題がある。




たとえば、アメリカ、カナダ、メキシコにはクラス8の大型トラックだけで500万台が稼働している。この4分の1に当たる125万台を将来的にBEVに置き換えるとすると、1台当たり300kWhのLiBを搭載するとして、375G(ギガ)WhのLiBが要る。これを10年間で供給するとして年間37.5GWh。同様にEUで300万台の大型トラックの4分の1に当たる75万台を10年間でBEVに切り替えるとなると、年間22.5GWhのLiBが必要になる。

ほかにも乗用車のBEVのためのLiBが要る。コンピューターやスマートフォンのためのLiBも要る。かくも膨大な量のLiBをすべて再生可能エネルギーで作ることができればいいが、おそらく無理だろう。LiBを生産する一方で自動車のエネルギーも電力になる。同時にリチウムやコバルトが要る。電動モーターの巻線に使う銅も要る。銅は資源としての再利用がきちんと管理された希少金属だが、年間1000万台のBEVが製造される時代になったら、果たしてどうなるだろう。

FCEVを作るにしても、現在の技術では固体高分子膜FCスタックの製造にプラチナが要る。全世界で年間200トンしか流通していないプラチナは、ガソリン車の3元触媒やエンジン排気のO2センサーなどにも使われている。産業界での流通量が現在の2倍に増えたら、果たしてどうなるだろうか。プラチナの代わりになる素材が何度か浮上したものの、実用化例はまだ聞いたことがない。

大型トラックのBEV化は、厳密にLCA(ライフ・サイクル・アセスメントorアナリシス)視点で廃棄・再資源化段階まで含めた考察が必須だ。走行段階だけのCO2(二酸化炭素)排出量では論じるべきではない。




それこそ、CNG(圧縮天然ガス)に軽油を混ぜたディーゼル燃焼なら熱効率60%が見えている。2020年代末までにe-フューエル(大気中のCO2と再生エネルギーを使って製造された水素による合成燃料)が実用化されるとしても、再生可能エネルギーが無尽蔵にあるわけではない。再生可能エネルギーの奪い合いになる前に原子力と火力がフル稼働を求められるだろう。

再エネ発電にもなんらかの設備と、その設置場所と、維持管理が必要だ。EUでは風力発電用の風車の設置があちこちで訴訟を抱え、すべて丸く収まる立地はもはや海上にしかない。




ICE(内燃エンジン)をなくしてしまっていいのですか?




この問いを大型トラックという分野で考えると、さまざまな調整が必要であるという事実に直面する。まだ大型トラック用ICEをなくしてしまうことはできない。アメリカでは物流の70%以上をトラックが支えている。日本は約90%と言われる。「わが社は物流でもCO2を出していません」と宣言したいがために、輸送業者にBEVトラックでの運搬を義務化すると、そのしわ寄せはいろいろなところに及ぶ。最終的に本当にそれが正解かどうかの判断さえ、現状ではできない。

大型トラックの「走行段階」だけCO2ゼロにしても、それは単なる本末転倒。そんな気がしてならない。(つづく)

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