陸海空3つの自衛隊は多くのヘリコプターを使っている。各々の目的に合わせてさまざまなタイプのヘリを保有・運用しているのだ。使う目的は、輸送や連絡、偵察や観測、救難、攻撃などと幅広い。多数の機種があるが、今回はまず、最大級のヘリであり陸上自衛隊と航空自衛隊が使っている輸送ヘリCH-47JAを紹介したい。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
CH-47JAの源流となる機体はCH-47というヘリだ。CH-47はアメリカ製で、愛称を「チヌーク(Chinook)」という。これはネイティブアメリカンの部族名に因んでいる。米陸軍はヘリの名前に彼らの部族名をつけることが多く、チヌークの他にはアパッチやイロコイ、カイオワなどがある。そしてCH-47はロングセラー機であり、四半世紀にわたり派生型を増やしながら飛び続けている機体だ。
CH-47チヌークの開発は1956年に開始され、原型機の初飛行は1961年。開発したのは米バートル社だ。機体前方と後方に回転翼を備えたタンデムローター式で、それをパワフルなエンジンで駆動する。機内は大容積で人員や貨物を大量に積め、機体下面の吊り下げ装置で火砲など重量物を運搬できる。こうしたコンセプトで「空飛ぶ大型トラック」を造り上げた。その後、製造はボーイング・バートル社となり、現在はボーイング・ロータークラフト・システムズ社となっている。
1986年、陸上自衛隊はCH-47チヌークを導入する。以降、ライセンス生産を川崎重工が行ない「CH-47J」として、そして能力向上型「JA」として生産を続け、現役機種として活躍し、もう35年も飛び続けている。
機体サイズはかなり大きい。ローターを含めた全長は約30mで、全幅(ローターの直径)は約18mにもなる。胴体長は約16mで、これは連接式の路線バス(日野ブルーリボンやいすゞエルガデュオなど)の全長約18mよりは短い。しかしタンデムローターを含めた縦横全体のボリューム感には圧倒される。機内も大型バスの車内のように細長い空間がある。
大きなローターが前後に配置されたタンデムローター式の機体は独特だ。そして印象的な外観なので見覚えのある方も多いはず。実際、頻回に飛んでいる。ドフドフドフ、あるいはドコドコドコというような重低音の飛行音が聞こえるから空を見上げるとタンデムローターの機影が見え、「あぁ、チヌークか」というということが日常的にある……ありますよね? それほど頻回に、マメに人員輸送や物資輸送で日本中の空を飛行している現役主力輸送ヘリがCH-47J/JAだ。
本機はその機内に人員約55名を乗せることができる。これは武装した普通科(歩兵)隊員を約2個小隊規模で輸送できる能力だ。大容積の機内には高機動車や小型トラックなどを積むことができ、加えて機外に120㎜迫撃砲などを吊り下げて輸送することも可能だ。機外吊り下げ能力は約11トンある。
輸送ヘリだが武装もできる。12.7mm重機関銃や5.56mm機関銃MINIMIを機体の各所に搭載できる。これで、ヘリなど航空機による進出作戦で、輸送した普通科勢力を展開させる際に牽制射撃や防御射撃などの火力投射が行なえる。
航続距離は約1040㎞と長距離を飛べる。自衛隊が喫緊の課題とする島嶼防衛を考えたとき、具体的には沖縄県などの南西諸島に陸上勢力を展開する場合、輸送ヘリは洋上飛行を強いられる。飛行距離は長いが、島伝いに給油や補給ができる拠点を比較的近距離で用意しないと万全とは言えない。また、有事の際には「おおすみ」型輸送艦や「いずも/ひゅうが」型などヘリ甲板を持つ護衛艦を配置して、それらをカエル跳びするように辿って、最前線の島へ飛ぶことも想定される。防衛作戦時は洋上補給が受けられる態勢が必須だ。海上自衛隊のヘリパイロットは洋上飛行が本業だが、陸自ヘリパイはそういうわけでもない。現在も陸自ヘリの洋上飛行は行なわれているが、島嶼防衛を睨んだとき、より一層の洋上訓練は必要になるはずだ。
沖縄県・那覇に置かれた陸自第15旅団の第15ヘリコプター隊はその地理的特性から洋上飛行が本業となっている。加えて、離島の傷病者を運ぶ急患空輸(緊急患者輸送)を前身である第1混成団時代から行なっており、現在までに9800件を超える出動と、1万名を超える患者の空輸を行なってきた。これは今も、24時間365日の体制で継続中だ。この急患空輸の主力装備のひとつが陸自CH-47JAである。南西諸島のレスキュー現場で不可欠なヘリとなっているのだ。