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新型スズキ・隼(ハヤブサ)のエンジン、マフラー、吸気系を解説。


スズキのフラッグシップモデル「隼(Hayabusa/ハヤブサ)」がフルモデルチェンジされ、2021年2月末頃より欧州、北米、日本などの全世界で順次販売を開始。ここでは新型の隼を徹底解剖。エンジン関係・吸気系・マフラーの詳細をレポートしよう。


REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)

「究極のスーパースポーツ」を目指した新型の隼(ハヤブサ)

パワーは197馬力→190馬力に引き下げ……しかしトータルバランスはアップ!

 エンジンは隼伝統の水冷4ストローク直列4気筒DOHC16バルブ。排気量は前モデルと同じ1340cc。新型の開発にあたり、スズキではさらなる大排気量化、6気筒、過給機(ターボチャージャー)付きも試作・テスト。しかし最終的には、前モデルと同じく、4気筒1340ccに設定された。




 新しい3代目のエンジンは、前モデルと同じ1340ccとはいえ、大幅に進化。新型エンジンのポイントは、




1:耐久性と寿命を向上


2:低速域から中速域でのスムーズな走りを実現し、ハイパワーと高トルクを獲得


3:安全性を高め、快適なライディングを提供する最新の電子制御システムの導入


4:最高速度を犠牲にすることなく、新排ガス規制のユーロ5をクリアすること




【前モデル(2代目)】


最高出力:197ps/9500rpm


最大トルク:15.8kg-m/7200rpm




【新型(3代目)】


最高出力:190ps/9700rpm


最大トルク:15.3kg-m/7000rpm




 スペックのみを見た場合、新型は7馬力ダウン。最大トルクも0.5kg-m低下している。しかし新型の最大のポイントは、前モデルのネックであった、低中速域に発生したトルク谷を解消していること。




 非日常的な超高回転域のごくわずかな領域は確かに低下しているが、トータルで見た場合、新型は前モデルを上回る快適さや扱いやすさを獲得するとともに、さらなる速さを確実にゲットしている。

初代、2代目(前モデル)、3代目(新型)のエンジンスペック比較。

新型は隼シリーズ最高の「パワーフィール」と「トルクフィール」を獲得

パワーとトルクの出力特性。

新型と前モデルのトルク特性を比較したデータ。新型は前モデルにあった低中速域でのトルクの谷間を払拭。

 最高出力は前モデルよりも8馬力低いが、新型は低回転域から高回転域まで、前モデルと同等以上の出力特性を発揮。

隼=オーバー300km/h!心臓部は水冷4スト直列4気筒DOHC16バルブ1340cc

新型のエンジンは、黄色い部分を再設計

前モデルから黄色い箇所が変更された。

 新しい隼のエンジンは、黄色い部分が再設計された。再設計箇所は下記の通り。




・吸気&排気カムシステム:バルブリフトのオーバーラップを減らすためにカムプロファイルを変更


・バルブスプリング:排気バルブリフトの増加に伴い、スプリング荷重を増加


・ピストン:新しい形状、軽量化、円錐加工のリストピン穴を採用


・ピストンピン:軽量化のためにショート化


・コネクティングロッド:軽量化と剛性アップ


・クランクシャフト:オイル通路を修正


・クランクケース:ジャーナルボルト締め付け方法を変更


・マグネット:キー溝を動かすことでエンジン始動を改善


・プッシュロッド:長さを調整


・トランスミッションリテーナー:新型専用に改良


・左右のカウンターベアリング:ニードルベアリングローラーをロング化


・ギアシフトストッパー:双方向クイックシフトシステムの採用でシフトフィーリングを向上


・ギアシフトカムプレート:双方向クイックシフトシステムの採用に対応した新しいデザイン


・ギアシフトカム:双方向クイックシフトシステムの採用に対応した新しいデザイン


・クラッチアッセンブリー:新しいアシスト&スリッパークラッチを採用


・カウンターシャフト:A&Sクラッチの採用に伴い、右端長を修正


・トランスミッションギア:シフトを改善するためにベアリング幅を修正


・カムチェーンテンショナー:チェーンの振れを最小限に抑えるように再設計

クランクシャフトのオイル通路を変更して、効率的にオイルを供給

 新型の隼は、GSX-R1000の設計・製作で培ったノウハウを活かし、クランクシャフトのオイル通路を変更。また、コンロッドの軽量化と剛性アップにより、効率的にオイルを供給。




 これにより、オイルポンプを変更することなく、クランクによる流量と圧力を54%向上を実現し、エンジンの潤滑性能をアップしている。クランクケースは、ジャーナルボルトの締め付け方法をトルクから角度管理へと変更。



左)前モデル 右)新型はコンロッド大端部へのオイル通路(青部分)が変更された。

新型は「TSCC(スズキ独自の燃焼室)」の形状変更で燃焼効率アップ

左)前モデル 右)新型 4本のバルブは前モデルより、軽量なチタン製を継承。

 燃焼室の形状は、スズキ独自のTSCC(Twin Swirl Combustion Chamber)。新型はTSCCの形状を変更して燃焼効率をアップ。チャンバーの前面と背面のスキッシュ領域は、渦巻きの速度を加速し、混合気をより迅速かつ効果的に点火。




 また、TSCCの強みをさらに活用するため、スズキではチャンバーに入る空気の流れを綿密に調査・分析。その結果、吸気バルブ周辺の燃焼チャンバーを機械加工。 これにより、バルブカーテン領域が拡張され、バルブが開き始めてリフトの高さが5mmに達すると、流量係数が5%向上。この変更によって燃焼効率向上。ユーロ5の基準を満たすのにも貢献した。

流量係数の比較。新型はバルブが開き始めてリフトの高さが5mmに達すると、流量係数が5%向上。

新型の鍛造ピストンは26g、コンロッドは3g軽量化

左)ピストン 右)コンロッド

 窒化クロムPVDコーティングオイルコントロールリングを備えた鍛造ピストンは、新しいTSCC形状に合わせ、トップ部分などの形状を変更。また、クランクシャフトのオイル通路の変更により、ピストン冷却オイルジェットの流れが増加し、ピストンをより効率的に冷却。CAE分析の進歩により、各ピストンの重量を26g削減しているのもポイントだ。




 これらにより内部振動が低減され、耐久性も向上。 さらにマシニング(金属切削加工機器)によって、リストピン穴内を円錐加工して、ピストンに伝達される応力を軽減している(下記写真の赤囲み部分)。




 ピストンが接続されるコンロッドは、大端部と小端部を幅狭化して3g軽量化。また、大端と小端をつなぐアーム部分の面積を増やして剛性をアップ。これらの可動部品の重量を減らすことで内部振動が減少し、エンジンの耐久性を向上。

新型ピストンの断面イメージ。マシニング(金属切削加工機器)によってリストピン穴の内部を円錐加工(赤い囲み)。

トランスミッションのメインシャフトニードルベアリングのローラー長を11mmから13mmに延長して耐久性をアップ。

 耐久性を高めるため、トランスミッションのメインシャフトニードルベアリングのローラー長を11mmから13mmに延長。クランクケースのジャーナルボルト締め付け方法を変更し、予圧の変動を狭めてジャーナルボルトの変形を防止。




 また、アップ&ダウン対応のクイックシフター装備に伴い、シフトカム&シフトカムプレートの形状を変更。ミッションのベアリング幅を改めてシフトフィールを向上している。

カムシャフトはカムプロファイルを変更して中低速域の特性を向上。

 カムシャフトは中低速域でのパフォーマンスと制御性を向上させるため、バルブリフトのオーバーラップを減らすカムプロファイルを採用。




 これにより、前モデルのネックであった、低中速域に発生したトルクの谷間を解消するとともに、耐熱性能を向上。また、作用角を小さくすることでスリッパー面に負荷が掛かってしまうため、カムローブの幅を広げて耐久性をアップさせた。

歴代のカムプロファイル比較。オーバーラップや作用角を減らしつつ、排気側のリフト量をアップ。

冷却システム(シリンダー、ラジエター)も性能アップ

摩擦を減らし、熱伝達と耐久性を向上させる、スズキ独自のSCEMメッキシリンダー。

 スズキ独自のSCEM(Suzuki Composite Electrochemical Material )メッキシリンダーは、摩擦を減らし、熱伝達と耐久性を向上。




 ラジエターはスタイリングの設計変更により、空気抵抗を減らして冷却効率を向上。ちなみに空気抵抗を約8%減らすと、すべての速度で空気の流れが改善。また、電動ファンによって移動される空気の量が約7%増えると、中低速度での空気の流れが改善される。 その結果、冷却効率が全体的に向上する。




 より広いファンピッチと縮小されたファンカバーサイズとの組み合わせにより、渋滞路等で停止する時のファンのスピンダウンも実現。

スタイリングの変更で冷却効率をアップさせたラジエター(上段)。下段はオイルクーラー。

カムチェーンテンショナーはフリクションロスを低減。クラッチは新たにアシスト&スリッパー式を採用

カムチェーンテンショナーはスリッパー表面にテフロンシートを追加して、フリクションロスを低減。

 カムチェーンテンショナーは、チェーンの振れを最小限に抑えるように再設計。スリッパー表面にテフロンシートを追加することで、無駄のないスムーズな動きを実現。




 クラッチは新たにスズキクラッチアシストシステム(SCAS)を採用し、エンジンブレーキやコーナーエントリー時のスムーズで安定したシフトチェンジを実現。また、クラッチレバーの操作性もアップ。

アシスト&スリッパークラッチ(スズキクラッチアシストシステム/SCAS)を採用。

混合気を微細化する「スズキ サイド フィード インジェクター(SSFI)」

 スズキサイドフィードインジェクター(SSFI)は、2次インジェクターを吸気ファンネル側へ斜めに配置する、新しいデュアルインジェクターデザインを採用。




 このシステムは、前モデルでは2枚だったスロットルバタフライを1枚とし、直角に配置されていたサブインジェクターの角度を斜めに変更。ここから供給される混合気を、吸気管内に新設した反射板に当てて燃料を微細化するしくみ。




 微細な混合気を生成する新設計のSSFIにより、混合気の充填効率が向上して低中速域での出力とトルクを2%アップ。

高性能な「電子制御スロットルシステム」を新採用

長さが44mmから43mmに変更された新型のスロットルボディ。

 新型の隼には、新たに電子制御スロットルシステムを採用。新しいスロットルシステムの導入に伴い、スロットルボディの長さが44mmから43mmに変更。




 また、インテークパイプ全体の長さ(インテークパイプ、スロットルボディ、ファンネルを含む)を12mm延長。これにより、低速域から中速域でより大きな出力を生み出すことに貢献している。

左)前モデルのエアクリーナーボックス 右)新型のエアクリーナーボックス

 スロットルボディの形状を変更することで、エアクリーナーボックスの容量を10.3Lから11.5Lに増加。 蓋はボックスの剛性を高める、新しい波形形状を採用。これにより吸気の音質が向上し、内部支柱のレス化を実現。

新しい「スズキ ラム エア ダイレクト(SRAD)」で加圧空気の流れをアップ

前モデル

新型

 圧力損失を減らし、エアクリーナーへの加圧空気の流れを増やすスズキラムエアダイレクト(SRAD)を採用。デザイン変更された新型のSRADは、卓越した空力性能と心地良い吸気音もポイント。

軽量コンパクト化されたエキゾーストシステム

左)前モデルのエキゾーストシステム 右)新型のエキゾーストシステム

 シリンダー1とシリンダー4をつなぐ(黄色い部分)エキゾーストパイプを新たに配置し、低中速域のパワーとトルクを向上(シリンダー2とシリンダー3のエキパイの接続方法は前モデルと共通)。




 触媒はコレクターに楕円形(レーストラック型)コンバーターを配置し、左右のマフラーに円筒形のコンバーターを配置する新しい2ステージシステムに変更。




 また、カムプロファイルの変更、最新のCAE分析ツールの適用、排気管内の触媒コンバーターの効果的な使用により、マフラーの容量を1.98L削減。加えてO2センサーの追加などにより、ユーロ5規制のクリアに貢献した。




 マフラーはバックエンドのシングルパイプへの変更と、よりシンプルなマフラー構造の採用により、排気システム全体の重量を2054g削減。この変更で、マフラーの内部構造の簡素化を実現。結果的にマフラーの重量が軽減され、より魅力的なエクステリアデザインを確立。

左)前モデルのエキゾーストシステム 右)新型のエキゾーストシステム

 新しいエキゾーストシステムの排気音は、スズキ独自の排気音品質評価プログラムを使用して調整・最適化。 新しくなった隼の排気音は、走行中はもちろん、エンジンを始動した瞬間に強力かつ魅力的なサウンドを放つ。新型のエキゾーストノートは、前モデルを超える厚みと独自性を実現している。

新型の排気音関する社内品質評価。すべての項目で前モデルを上回っているのが特徴。

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